リザインサバイバル4
「……やっぱりそうか」
凜は呟いた。そして舌打ちをする。
戻してみるときに、何気なく彼は録画時間を確認した。そしてそこでやっと気づいたのだ。録画を始めた時間と終えた時間から考えられる録画時間より、1時間以上短かったのだ。
もう一度同じ映像を詳しく解析してみると、なるほど、と納得する。
違和感を覚え始めた頃の数分、わずかであるが、とんでいるのだ。それは最初数秒単位ではあるのだが、確実に、少しずつずれている。数秒単位がやがて数分単位で、そして、倉庫から物が無くなった時は30分もとんでいた。男が突然消えたり現れたりしたように見えたのも、とんでいたせいだった。音も、よく聞き、分析してみると、とんでいることが確認できた。
違和感の正体と、倉庫から突然物が無くなったり、男が急に現れたり消えたりした理由はこれで全て説明がついた。
だが、これはこれでまた厄介なことがわかった。向こうはカメラの方を向いていた。つまり、凜がこっそり隠れて設置したカメラの場所がわかっていた。それに、カメラが壊れているわけでもないのに映像がとぶのはただの偶然には思えなかった。
1台だけならともかく、全てのカメラ、全てのマイクが同じとき、同じようにとんだ。しかも盗まれる前後だけ。
「……場所がばれてる上、何らかの方法で映像の録画録音の電波を邪魔したのか……」
これは苦戦するな、と凜は溜息をつく。色々収穫はあったが、めんどくさそうなことがよくわかった。
彼はもう一度溜息をつくと、工具を手にする。次の手段に出るためにもまずはエンジンの故障修理と、長老に報告をしよう。彼はそう決め、乗り物から降りた。
ジャリジャリ、という靴音。それは近づいていた。隠すわけでもなく、ただごく普通に近づいていた。何かを探すかのように、それはあたりを見回す。真っ暗な闇。近くに火を焚いている人物はいるが、それに気づく様子がない。
一度足を止め、それはじっと見つめる。そして、一歩踏み出した。
「動くな」
ごりっとそれの頭に誰かが何か固いものを突き付ける。ひどく乱暴で、それは一瞬何が起きたか理解できなかった。さっきまで火を焚いていた人物の方に視線を送るが、そこに先ほどまで見えていた人影がいない。
それと誰かはそのままで数秒経った。やがて誰かは溜息と共に銃を下ろし、それに声をかける。
「……幼い子供、しかも女とか……どれか一つぐらい条件当てはまっていればいいのに、くそ」
「え? あ、あの?」
「……お前、どこから来たんだよ。ここの村の子供じゃねえだろ、服からして」
「どこって……向こうの方」
少女が指(というか腕)を差す。向こうと言われても、誰かこと、凜の目には夜の砂の大地しか見えない。いやいやいや、おかしいだろ。本当にコイツどこから来たんだ。
「あのね、向こうの方にオアシスがあるからね、そこから来たの」
「……遠いんじゃないのか?」
「遠いよ。でもね、村の人困っていて、それ助けに来た人がいるって言うからね、頑張ってきたの」
随分と耳がいいな、と凜は思う。胡散臭さ漂いすぎて酔いそうだ。そして、子供大嫌いの凜にとって、この少女の相手だけでも疲れそうだ。
「えーっと、お兄さんが村の人助けに来た人?」
「不本意ながらな」
「よかったー! 銃とか怖い人だと思ったけど、この人が助けに来てくれたいい人なんだね!」
随分明るい奴だ。ああ、うるさい。耳を塞いでしまいたい。凜は舌打ちを小さくする。幸い、彼女には聞こえなかったようだ。
「……お前、何しにきたんだよ、そのオアシスから」
「私、知ってるの。みんなが探している男の人」
「……!?」
「私ね、見たの。その人がね、ずーっと向こう、大きな荷物持ってどこか行くの」
「……おい、それは本当かよ」
私は嘘ついてないよ、と頬を膨らませる少女。凜の胸辺りまでしかない身長、炎に照らされて光る赤い瞳。
あー、鬱陶しい。なんだっけ、こういう展開、RPGだかそういうのだっけ? 詰まった時に出てくるヒントと、砂の大地の向こうの方、という随分雑な指図。凜はボリボリ頭を掻く。そして一歩下がって彼女を見下ろす。
「……もし、嘘だったらお前はどうする?」
「え? 疑うの? んー……じゃあ、あなたの言うこと一つ聞く!」
「おーし、じゃあ、嘘ついたら針千本飲めよ。決定だからな、針1000本用意するからな」
「え、それはないよ! 針は食べ物じゃないよ! 痛いし死んじゃうよ!」
慌てるその子に、嘘ついてないなら余裕だろうが、と凜は毒づく。嘘ついてないもん、とその子はボソッと言うが、凜は無視した。脅すだけ脅す。何故なら自分が大嫌いな子供だから。
凜はその子の首根っこを掴む。
「案内しろ、ガキ」
「ガキってやめてよね! 私、これでも20歳だからね!」
凜は思わず吹き出した。
「……オレは星凜だ。お前は?」
「私? 私はクルエルだよ。よろしく、凜さん」
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