マリオネット
赤い髪。
緑色の目。
人と違う姿はアイツらが消えても、アイツらのこと忘れようとしても、消えてないかのように、思い出させるかのように、オレに現実を見せる。
悪魔と呼ばれるようなこの気持ち悪いほどの鮮やかな赤い髪。気味悪がられる緑の目。そして、この体に刻みつけられた呪いの言葉。オレは人と違いすぎ、そして、あまりにも人を求めすぎている。苦しいくらい、悲しいくらい。
「父様は愛されたいのですね」
ニパーッと無邪気な笑みを浮かべる、オレの娘。訳があって、わずか4歳しか年が違わないが、ちゃんとした(?)親子である。オレの赤い髪がほんの少し混ざってはいるものの、容姿はオレにはあまり似ていない。
そして、こんな無邪気な笑みを、こんな綺麗に笑うことを、俺は知らない。母親に似たのであろう。
娘は、オレの顔を見つめ、ニコニコしている。
「父様は、愛されたいだけなんですよ。ちゃんと愛されたことなどないの ですから」
「……オレが、愛されたい、だと?」
ハイ、と笑う。ですが、と言葉を続ける娘。
「父様なんて、誰も愛しませんよ。誰一人として」
はっきりとした声。一切笑みを崩さない。本当に無邪気に笑っている。どれほど残酷なことを言っているのかわかっていないかのように。
「父様は確かに、腕もいいですし、頭もいいですし、髪と目さえその色じゃなければなかなかいい人でしょう。しかし、父様はその髪、その目、そして、その刻印を持ってしまった以上、大半の方は嫌うでしょう。
魂の半分近くを失い、足りない部分を求め、その中途半端な腕で手伝い、誰かに縋って、誰かに求め……。欠落してばかりの人間はそれを誰かに従うことで補う。そう、父様のような人は特に。
いくら褒められようと、他人に縋ってもらったその栄光に喜べず、生きがいもなく、死にゆく」
赤と茶色が混ざった娘の髪が風にゆらぐ。春が過ぎ、もうすぐ初夏に入ろうとしている季節で、風は温かい。風の音が聞こえるはずなのに、オレの鼓膜を揺らすことはない。娘のその無邪気な笑顔を食い入るように見つめるしかなかった。
オレは自分の呼吸が異様に浅くなっていることに気付く。鼓動も随分とテンポが速くなっていて、苦しい。動揺しているのか、オレは? いつも死ねだの、くたばれだの普通に言ってきて、日常的にメスだのなんだの笑顔で投げてくるこの娘の言うことに、こんなにも動揺するものなのか?
平静を装い続ける。魂の半分近くを欠いてるせいもあって、大概のことでは動じないオレが、平静を装うことになるとはな……。
「愛されたくない、愛すな。そういっているくせに、なぜそこまで他人に執着するのですか? はっきり言って迷惑ですね。そんな中途半端で、できそこないの父様。足りなくて、足りなくて、足りなくて、それを他人に求めようとして、でも、求められない、とほざく。キャハハハハハ!! 滑稽ですね、父様。リーは父様が哀れでなりませんよ。
愛されたいのに、愛されたくないふりをする、滑稽なマリオネット。周りに操られてばかりで、愛されたいのに誰にも愛されることなんかない哀れで愚かな人間です」
もう聞けない。
オレは向きを変える。
この無邪気な笑顔から発せられる言葉は、何一つ間違ってはいない。だからこそ、聞きたくない。だからこそ、もうこれ以上事実を言われたくない。否定できないから、そうだから、余計に。
ゆっくりと息を吸い、声を絞り出す。
「……だからこそ、消えたくなるんだ」
きっとあの人ならオレを軽蔑するだろう。
あの人は愛を嫌うのだから。
愛されることも、愛することも、愛を求められることも、全て。
あの人に頼って、あの人に縋って、欠落した部分を補っているのはわかっている。
だからこそ止められないんだ。
ああ、気持ち悪いな。
ああ、気色悪いな。
わかってる。
誰もオレのことなど愛しやしない。
ああ、もう頭が痛い。
そうさ、どうせオレは捨てられていくだけの操り人形なんだから。
マリオネット fin
厨二病乙www