フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

Record Of A War In Cross World 〜1〜

「次っ!!」
 教官の声に反応し、5人一斉に走り出す。
 手にもつ銃はおよそ10kg。決して軽いものではない。
 だが、それで全力ダッシュできなければ何もできない。そうやって持った銃を背中に回し、棘だらけの狭いコースを匍匐前進で抜ける。
 オレは元々体が大きいのもあり、多少は通りづらいが、問題はない。
 一気に抜け出すと同時に立ち上がり、駆け出す。次は2mはあるだろう壁だ。
 助走を軽くつけ、地面を蹴りあげる。壁のふちをガッとつかみ、壁を蹴って体を壁の上にもちあげる。そして、高さを目測ではかり、大丈夫と確認して飛び降りる。
 次は足場が非常に悪くて、滑る。その上でも、オレは駆け抜けていった。


「3分21秒……新米兵士の基準越えのレベルじゃないな」
 教官がつぶやく。オレは教官にありがとうございます、とできるかぎり冷たく聞こえないように言う。教官はチラッとこっちをみて、そして、他の二等兵たちに目をうつした。少し可愛げがなかったかもな。愛想が悪いのは自覚はしている。
 オレより1分以上遅れてきた他の二等兵らは息を切らし、その場にへたりこむ。基準を満たしているのに、教官に怒鳴られて可哀想に見えてくる。
 10kgの銃を抱え、障害物を乗り越え、最後の1kmは全力ダッシュ。そら、障害物の量、レベル、距離を考えたら4分5分ぐらいが御の字だ。
 同僚たちがやっとこ立ち上がり、水分を補給する。お前のせいで怒られた、という視線に、オレは顔をしかめそうになるが、すまん、と小さな声で答えた。
 少しスピードとか落とした方がいいのかな……あんまり速くても、仲間が追いつけないようじゃ嫌でもスピードは落とさなくてはならないだろうし……。ああ、でも、今ので手を抜いたらすぐわかってオレが怒られるな。まあ、いいや。考えるのめんどくさい。
 オレは小さな声で呟きながらも、手に持っていた水筒を置く。そして、空を見上げる。雲一つない春の空。心地よい太陽の光と温かな風にオレは少しだけ和んだ。
「3分1秒!!」
 教官の声が響く。
 その瞬間に周りの空気が一瞬凍り、どよめく。教官の怒鳴り声ですぐに静まったとはいえ、やはり全員戸惑いは隠せないようだ。
 それにしてもオレより20秒速いとか……そんなオレが言うのもなんだが、化け物みたいな奴がいるんだな。素直にそこに驚いた。3分台であるのは相当だと言うことも知ってるし、そんなにいないことも知ってる。
 そんな奴がもう一人とはな。
 オレは空を見ていた視線をそいつの方に向ける。
 銀色の長い髪を邪魔にならないようにか軽くだが縛っている。オレよりも若干高さがある。整った顔をしていて、キリッとした目だ。表情を浮かべていず、涼しい顔をしていた。
 へえ、こんな奴いたっけ。人数が人数だから全員は知らなかったが、できる奴なんだな。正直な感想はそれぐらいだった。
 そいつがオレの方をちらりと見る。そして、よくわからないが不敵な笑みをほんの少し浮かべて、顔を背けた。
 勝ち誇ってるのか、実力者の余裕か……。後者なんだろうな、とオレはつぶやいて、ため息を一つついた。





「リク、向かいいいかな?」
 そうやってニコニコしながらオレに話しかけてくる奴一人。
 勝手にしろ、と答えてやると、勝手にする、とにっこり笑ってオレの向かい側に座る。その顔に張り付けた笑顔。愛想のよさと無邪気な口調はコイツの売りだ。
 ヒカリといった。コイツはオレの軍の寄宿舎のルームメイトである。
 オレと歳は若干下だが、同じ新米兵士だ。天使のような綺麗な顔をしていて、軍服が見事なまでに似合わない。体は細く、ひどく華奢だ。軍人にとてもじゃないけど見えない。まあ、実際訓練してみたら、中の上と意外と基礎体力や力はあるのだが。
 ニコニコといつでも笑顔をふりまき、できるだけ敵を作らないように立ち回る。まだ少ししか時間は経ってはいないが、オレにはそういうのがよくわからる。現に、いつも口にしない本音なんかひどいものが多い。だったら言えよ、と言いたくなるものまで本音を隠す。ま、本音で関係が崩れたりしたら厄介なんだろうしな。
 そいやーさー、と豚カツを口にしながらヒカリは話し出す。サクサク音を立てているのが非常に気になるが、そこはあえて無視することにする。
「リク、新米にして障害物競走2位、しかも3分前半なんだって? すごいねー」
「……お前、相変わらず情報速いな……あと、速いってわかってんの」
「大体新米兵士にして平均は4分後半から5分前半。3分台はなかなかいかない。ウィル大将のような人とかは別として、ベテランでも3分前半はかなり速いね」
 オレは肩をすくめる。こうやって情報で責められたひにゃ、大人しく引き下がった方がいい。あまりムキになって、コイツの毒舌披露会なんて開きたくないからな。大体あっているのが腹立たしいものだ。
「……オレより速い奴はいたけどな」
「知ってるよー、銀髪の人でしょ? あの人新米の中では相当な実力者みたいだね」
 へラッとした笑みでサラッとヒカリは言う。こいつの情報の速さは結構なものだ。一見してどうでもよさそうかすぐにでも手に入りそうな情報でも、あまりに幅広い範囲でほとんど噂発生と同時に仕入れてきやがる。どっからどう回収してくるのか気になるものだ。
 それはそうと、やっぱりあの銀髪は新米の中でも実力はあるらしい。逆に何で今まで知らなかったの、とからかい口調で言われる。悪かったな、お前と違ってそういうのに結構疎いんだよ。オレが不機嫌そうに答えると、ヒカリは楽しげに笑った。
「まあ、最初訓練する班違っていたし、リクが割とそういうネットワークに疎いから、知らないのも無理はないかもね〜(笑)」
「……ケンカ売ってんだろ」
「まさか! 君にケンカ売って殴られたらボクなんか簡単に吹き飛ばされちゃうよ!」
 ヘラヘラ笑ってるのがうっとうしいが、まあ、いい。バカにされるようなオレもオレだ。
 ヒカリは味噌汁をすすり、まだしゃべる。
「あの人ねー、何かある気がするんだよねーw」
「……変な奴だと思いはしたがな」
「それはリクに言われたくないわ」
「そっくりそのままお前に返す」
「返さなくていいしwwボクからのささやかなプレゼント」
「包み返して送ってやる。そうじゃなきゃ投げるぞ」
 脱線しまくる会話。大体ヒカリはなんでオレの時だけこんなにも悪態つくんだ。他の連中には上っ面とはいえ、まだ愛想はいいのだが。
「……なーんか、臭うよねー。……いい感じにかき乱して、騒動の火でもつけてくれそうな雰囲気ぷんぷんw」
「なんとなく気持ちはわかるが、後半のお前の願望がやたらと黒いぞ」
 やだなー、冗談だよ、と言ってる目が冗談じゃないことを悠然と語っている。本当に、コイツは……。
 ため息をつき、オレは立ち上がる。そして、ふと聞き忘れていたことを思い出す。
「なあ」
「ん?」
「そいつの名前、なんだっけ?」
 あー、と言ってヒカリは軽く頭の引き出しを漁り、にっこり笑って答えた。
「バロム。バロム=オーギス」


To Be Continued……



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