フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

Record Of A War In Cross World  3話

「っだよ、アイツ!!」
 オレの拳に反応したヒカリが枕を持って構える。どうせそうすると思っていたから、思いっきり枕を殴ってやった。ヒカリの腕が若干ぶれ、拳の勢いにおされてヒカリは多少後ろにずれる。まあ落ち着けって、とヒカリは楽しそうに笑いながらオレに声をかけた。
 落ち着けるか、これが!!
「ほぼ初対面で口きいたことない奴に、すげえ上から目線で蔑まれて、言いたい放題言われて落ち着けるか!!」
「リクにプライドなんてものがあった事実にびっくりだよ」
「張り倒すぞ、ヒカリ!!」
「やだなー、冗談じゃないか、リク。今僕をその君に起こったできごとの八つ当たりとして殴ったら、僕をただのかわいい後輩だと信じ込むアホどもの報復が待ってるよ」
「今のは完全にタイミング間違えて、茶々入れるてめえ自身のせいだろ!!あと、先輩をアホども言うな、先輩を!!」
 拳をもう一度ヒカリに向かって繰り出す。ヒカリはまたさっと枕を出してオレの拳を回避をする。ぼすっという鈍い感覚と音。はあ、というオレとヒカリのため息が重なった。


 んで、とヒカリはお菓子をもぐもぐ頬張りながら話を切り出す。ヒカリの言うとおりに少し頭を冷やし、今はお茶を入れて飲んでる。正直言ってヒカリの入れたお茶は渋みが強く、熱すぎるのだが。
「リクに対して、嫌いだ、理由は手を抜こうとしてるから、あと、軽々しい口をきくな、か」
「……ああ」
 そっかー、とどこか楽しそうな口調でヒカリはお菓子全部を口の中に放り込む。そしてお茶を飲み、少し苦笑いして渋い、と一言つぶやいた。
 サラサラな薄い茶色の髪の毛。青い綺麗な瞳。優しげな笑みを浮かべる姿は、天使のようだとも言われてる。だが、まあ、本性知ったらそんなこと微塵も思わなくなるだろうがな。羊の皮をかぶった狼……いや、天使の顔をした悪魔に近い印象を受ける。
 ヒカリはほおづえをつき、オレの顔をゆびさす。苦く笑いながら、口を開いた。
「ぶっちゃけさー、僕的にもその人に賛成かなー、実力あるのに手を抜くとか、何それなにしちゃってんの、何様なの?」
「……」
「リクは周りを気にし過ぎなんじゃない?」
「……お前にだけは言われたくない」
 僕は周り気にしないと話にならないからねー、と笑う。だが、正直、コイツの言うことにぐさっと胸にくる。
 周りを気にしすぎ、か……。本気で手を抜くつもりではなかったが、それでも、手を抜こうとすること自体が誤りだ。そう言っているんだろう。
 親父で知っているはずだった。だが、それ以上にオレは、周りを気にしないと気が済まない。自分が秀でていたとしても、周りとうまくやらなければ、と思う節がある。
「……自分だけできても、周りがついてこれなきゃ意味がねえんだよ」
「……というと?」
「自分ができたところでなんだ?スポーツの大会じゃあるまいし、一人ができたところで、周りができなきゃ強くなれるはずがない。
……自分一人だけ強くなっても、結局軍は集団だ。オレだけできても、協調できないだろ」
「あー、確かに連携だからね、軍って。
お前にできても、オレにはできねえよ!!っていう負け惜しみバカのために、リクは実力を出さないまま、と。
見下し過ぎてんのはリクの方じゃね?できるから仕方ないんだけどさ」
 ヘラっとした笑み。確かに、見下した言い方だ。自分でもそうは思っている。
 だが、周りが悪いんだ、という考えはどうしてもできない。人がそれぞれ向いてるのも向いてないのもある。考え方がある。そこに、自分が秀でているからって同じレベルを求めるのかと。
 あきらめる奴もいるだろう。精一杯やってもできないことなんてこの世にありふれているんだ。
 みんなが同じレベルに引き上げられないなら、合わせるしかない。軍は集団であり、協調しなければならない存在なのだから。一人だけ違って、周りのやる気を削いでいくくらいなら……。
 実力をだしきって協調を求めないか、それとも、協調を重視して、ある程度実力を押さえるか……。オレは、親父のように両方をうまくやっていける自信などない。
「……あんまりにも優秀だと、それはそれで困っちゃうねー」
 ヒカリはそうやってお茶をのんびりとすすった。


 ウィルはにんまりと笑う。
 さっき剳乱から似たようなことを聞いたからだ。リクのことを懸念する気持ちもあるが、やはり自分の息子だ。気にかけずにはいられない。
「そうか、リクがそんなことを」
「実力は抜きんでていいからねー、君の息子君は」
「軍人になりたい言った日からしごいたからなー……そこらの新米兵士と一緒にしてほしくないレベルだよ」
 ホント、親バカ、と剳乱に苦笑いされるが、本人はそんなことなど気にもしない。
 で、と剳乱はお茶をすすりながらにっこり笑いながらウィルに言う。
「どうするつもり?このままだと、新米兵士たちの中で孤立するか、実力あるのに下がっていくかのどっちかだよー」
「……」
 下がったら困るなあ、と小さな声でウィルは苦笑いする。自分が育てた子供が、そんな不特定多数のために、軍の平均に合わせようとすることは軍の質を下げる。リクはそうは言っても軍人としての才能は十分にあるし、性格的に細かいことに気がよく回る。人のことをよく見ている。それが仇になっているのが現状なんだが。
 何人か優秀な人材がいて、その人らが引っ張るから質があがる。まあ、その人材にリーダーがいなければ確かに協調性には欠けるだろうが。リクにはそんなリーダーができそうなんだがなあ、とウィルは心中でつぶやく。
 どうしたものやら、と笑う剳乱に、ウィルは爺に答えを急かすのは酷だと笑った。考えてはいるのだが……まあ、急ぐ必要はない、ゆっくり剳乱の情報報告を聞いて練っていよう。ウィルは穏やかな微笑みを浮かべたまま、心中でつぶやいた。


 次の日もいい天気だった。
 早朝の朝日もまだ出てこない時間にリクは外で拳を振るっていた。
 体術、身のかわし、守り、反射行動。それにプラスして筋トレをやっている。どれもこれも、いつもの訓練よりハードなものが多い。ウィルに育てられたときに教わったトレーニングをそのまま続けているからだ。
 別にこれやんなくてもよくね、とぶつぶつ文句言いながらも、ヒカリも付き合う。さすがにリクと同じメニューはこなせないが、それなりに体力がある分、思ったよりはついてこれるのだ。指たてふせなんて、リクか大将のウィルでなければできないものは遠慮したが。
 やれやれ、とヒカリが水分を補給して汗を拭く。朝は気持ちがいい。こうやってトレーニングを続けるリクに付き合うと言うことは、結構いいことなのかもしれない。だが、さすがに黙々とトレーニングをし続けるリクに苦笑いをした。リクの汗が体中から吹き出て、朝日に反射して光る。もうかれこれ一時間以上こうしているのだ。
 一番簡単な実力を合わせる方法は、トレーニングなんてすっぱりやめることだ。こんな訓練で力がついて、どんどん良くなっていくのがダメなのならば、みんなと同じ訓練をこなして、同じようになっていけばいい。
 そんなこととっくにわかっているはずなのに、リクはやめない。ヒカリが言ってもそれだけはやめようとしなかった。運動不足になる、とか、きつい訓練受けている限りありえないことを理由にやめることなんて全くしようとしなかった。理由なんて簡単だ。
(強くなりたいなら、強くなっていいのになあ……)
 ヒカリはリクのそんな姿をみながらため息をひとつついた。どっちかにできないのなら、どっちもできる方法はないのかとか考えないのか、練習バカ。ヒカリは口にはしなかったが、そうやってリクに毒を吐いた。
 ヒカリにとってリクは年上だが、それでもまだ子供のように見えた。


 訓練が終りを告げる。教官の声とともにざっと全員礼をして、ありがとうございました、と叫ぶ。教官の解散と同時に、みんながみんな、緊張がとけたように個々に動き出す。
 オレは周りの視線に痛みを多少覚えながら、その場を離れる。あの銀髪……バロムとかいう奴に会いたくないからな。まだ、あのわけわかんない奴やこの周りよりは、ヒカリとともにいた方が多少は落ち着く。そうは言ってもアイツは結構いい奴だしな。
 何をやっても、みんなとオレの差が違いすぎる。言いたくはないが、あまりにも違いすぎて、どこでどうすればいいかわからない。
 仲間とうまくやらなければ、実際には役には立たない。でも、手を抜くことはよしとされない。オレの存在が、みんなのやる気をやっぱり削いでるのかもしれないな。こんな見下した考えを平気でできる奴なんてさ。
 できる奴はいいよな。
 そんな言葉はよく聞こえてくる。
 オレとするのなら、強くなることがそんなに悪くて、周りとうまくやれないのならば、強くなりたいと思えない程才能を削いでほしい、と。
 普通にしてほしい。
 今更無理だし、まだ未練たらたらなのが今のオレなんだがな。
 オレは自嘲気味に笑った。


 誰かの怒鳴る声。
 何かを蹴るような音。
 倒れる音。
 そんな音がいきなり耳に入ってくる。すぐ近くで。
 オレは音のした方向を見る。
 倒れている小柄な二等兵、その後ろで、銀髪のアイツが、その二等兵を踏みつけようとしていた。二等兵はまだアイツのしようとしていることに気付いてない。あんなの食らったら、しばらく動けないぞ。考えるより先に走りだす。
「っにやってんだ、あのバカ!!」
 とっさにかがんだ姿勢で二等兵を抱え、アイツの足が振り下ろされる前に避ける。二等兵のクッションになるように体を移動させ、少し離れた地面に落ちる。体に来る衝撃。軽く体を打ったが、大丈夫だ。親父に投げられたときの方が遥かに腰にくる。
 アイツは足を地面に振り下ろしきっていて、こっちを不満げに見ていた。
 オレは立ち上がり、アイツに詰め寄る。
「なにやってんだ、お前は!!」
「……我の足に砂をかけた。だから蹴った」
 何が悪いと言いたげな顔に、オレは拳を作った。
 ふざけんな
 オレは叫んだ。



To Be Continued……

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