フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

Record Of A War In Cross World  5話

まず聞こえたのはヒカリの爆笑する声だった。オレの顔をヒカリは指差して笑っている。笑いすぎて呼吸ができない状態にまで入ってる。腹筋いってえ、とか言ってる声がひどく耳障りだ。
「っるせえな、ヒカリ!!」
「だってwwwww待ってwwwwwその顔おかしwwwwww」
「笑い止めろ、てめえ!!」
むしゃくしゃしていたところにそんな声聞かされたんじゃたまったもんじゃない。オレは拳を作ろうとしたが、今のオレじゃあ枕を突き破る。
このやるせない気持ちを乗せて、ヒカリに枕を叩きつけた。ヒカリはそれを枕で叩き落とした。情報部門のくせして随分といい反射神経してる。
机につっぷしていくらか笑った後、やっとヒカリは笑いを止めた。
いつもの笑顔にいくらかくすくすという笑いが混ざり、で、と話を切り出した。
「あの優秀なバロムっていう人が、同僚の二等兵を砂かけられた、っていう理由で踏みつけようとしたからリクがとっさに助けて、怒鳴ったら、よくわかんない理屈で正当化しようとしたから殴って、殴り合いになって、大将様に止められて、呼び止められたんだって?」
「わざわざご説明ご苦労様!」
不機嫌そうに厭味ったらしく言っても、ヒカリはいえいえ、と涼しい顔で答える。あのくそ渋くて熱いお茶を差し出しながら、落ち着きな、と言った。ヒカリなりの一番の気遣いが、このお茶だ。渋くてもすする。
「あのスパイクで踏みつけられたら、最悪復帰できないよねー、強さの度合いによるけど」
「あの体格で微塵の迷いもなく、遠慮もしているように見えなかった……!」
「あららー、それはダメだわ、助けたリクの判断は正しいねー。そこで大人しく引き下がっていればよかったものを」
「っ引き下がれるか!!」
だと思ったー、とヒカリはにこにこしたまま言う。見透かすような物言いにイラつきながらもオレは続きを言う。
「なんだよ、アイツ!?人ひとりの人生そのものをダメにしかける行為をして、何が悪いって!?人間としておかしいだろ!!」
「んまあ、それはそれで確かに悪いのはそっちだねー。手を出した時点でどっちもどっち、てのが正直な感想だけれど」
ヘラっとした笑顔。相変わらず率直な意見が厳しい。それが逆に嬉しい。ヒカリは友人とかそういうのに縁がなさそうなぐらい、自分の意見に率直だ。オレに対してだけだが。他の連中への猫かぶりもいいところなのは今は考えないでおく。
親父にぶん殴られた瘤がひどく痛む。アイツに本気で殴られたはずの頬より、こっちの方が数倍痛い。ったく、親バカなんだか息子に厳しいんだか今でもよくわからん親父だ。
「んで、止めたのかウィル大将でよかったねー。ウィル大将じゃなければ、ケンカなんて止められないだろうしね。でも、ウィル大将のことだからきっと手加減なしにぶんなぐったんだしょ?」
「手加減したから血が出ないで済んだんだ!」
「うっわ、手加減してその瘤なんだwボク、ウィル大将敵に回したくないわw」
茶化すような言葉とこの瘤の痛みに二重にイラッとする。
親父の話が出て、更に嫌なことを思い出す。
親父が出てきて、思わず親父と言った。そら、大将である親父が新米兵士の訓練場にくるとか想像なんてしてなかったのだから。だから、思わず、言い慣れた呼び方で呼んでしまった。親父、と。
それが間違いだった。大将の息子だから、軍に入れたんだ、と言われて悔しくないわけがない。
オレは大将である親父にあこがれた。親父に認めてもらうのは、息子としてではない、軍人として評価してもらいたかった。だから、鍛えてもらいはしたが、入隊の基準は人より高くしてくれ、と頼んだ。評価が甘いんじゃないかと言われるのが嫌だった。
そして、親父を悪く言われるのが嫌だった。息子に甘い、息子贔屓にする。あこがれる人をそう悪く言われて、怒りを覚えないわけがない。オレのせいだ、これで親父の評価が下がったのなら。
「……くそっ」
だんっと机を殴る。ヒカリがお茶をすすりながら、机壊れるよーと笑った。そして、オレにお菓子食べる?と聞く。正直オレは甘党ではないのだが、もらった。ヒカリの珍しい気遣いだ。
「それで?どれくらいのお咎めで?」
「……上等兵になるまで、ルームメイト、班、ペアを自由に決める権利の剥奪だ」
「あらー、それは随分と甘……。……」
何かを考え始めたヒカリ。珍しく口をつぐむ。そして、納得がいったようにヒカリはうなずいた。
「……明日、荒れないでね」
「……は?」
「片付けはしないから。まあ、ルームメイトのご指名くらいはボクがしてあげるよ」
そう意味ありげに、多少あくどくヒカリは笑った。




『ペア バロム=オーギス』
あの若干あくどい笑みの意味を理解するのにそれほど日数はいらなかった。





「親父いいいいいい!!」
思わず蹴り開けたくなる勢いで大将の部屋に入る。親父は予想通り、大将の椅子に座って若干あくどい笑みを見せた。
「おいおいノックぐらいするもんだぞ、リク」
「オレが親父と暮らしていた時はノックすらせずにいきなり入ってやりたい放題やっていたくせしてよく言うな、おい!
……んなことどうでもよくて、何だ、これ!!」
「紙だが?」
「そんな初歩的なことなんて聞いてねええええ!!」
完全に親父といた時のノリになっているが、今は色々考えてる暇などない。大将だなんだ言ったって、完全防音、情報部門ボスの剳乱中佐しかいない。剳乱中佐はオレが親父と親子であること知っているし、むしろこのやりとりを面白がっている。ここに親父の評価を下げるような奴はいないのだ。
「っなんで、アイツとオレをペア組ませるんだ!?昨日何が起きたか理解してんだろ!?」
「まあまあ、今日はペアはどうだった?」
「罵りと教官の怒号の連続だ、ちくしょう!!」
「あはははは、やっぱりな」
「やっぱりな、じゃねえよ!!想像はついてんじゃねえか!!」
剳乱中佐が笑いっぱなしだが、それはもう気にしない。ヒカリで慣れた。


オレとアイツ。


本当に何で組ませたかわけがわからない。
アイツの優秀だが周りの見えてなさ、アイツの随分と横暴でわがままな行動、全てが最悪だ。フォローしようがない。したはしたで当たり前のような顔で、しかめっ面される。罵りが止まらないわけだ。
それでもって、向こうもオレのことが嫌いだ。合うわけがない。どんなに実力があろうと、オレがペアを決める権利がなかろうと、息の合わないペアとなんてやってらんない。互いの足を引っ張り合うだけだ。せめて、ペアにした理由ぐらい知りたい。納得が全くいかない。
「理由を話すには少し長いんだが……」
これには剳乱中佐も笑いをこらえながらもこちらに耳を澄ませる。
「……オレもよくわからない人だから、リクに任せれば何とかなるだろうかと思って」
まともな解答を期待したオレがバカだった。剳乱中佐はお腹を抱えて爆笑している。
「っんな理由でかああああ!!」
「ああ、あと、リクならあのスパイクで踏まれたぐらいじゃ大したケガにはならないだろうし」
「オレはサンドバックじゃねえぞ!!親父のあの怒涛の攻撃になれれば確かに大したことにならねえけど!!」
「他の兵士消費するよりずっと効率はいいだろ」
「あんたそれでも総大将かああああああ!!」
それ以前に人間としてそんなんでいいのか気になる。兵士の消費やなんだ言うな!!
親父のこんな雑な理由でペアを組まされたなんて、冗談じゃない。そんな不満げなオレに親父はにっこり笑って言う。
「……ペアの交代は認めないからな?」
「っ……」
その言葉は絶対的だ。昨日のオレが悪い。そう言ってる。ペアを解消したいのなら、さっさと階級を上等兵に、そして、それまでアイツとうまくやれ、と言っている。
なんて無理難題を言う親父で、大将なんだ。オレはその最後の言葉に、言いたかった言葉全部を飲み込み、その部屋から出て行った。



「しっかし、君も鬼だねえ、大将様?」
「それを言うなら、君も似たようなもんだろう」
まあね、と笑う剳乱に、ウィルはまた穏やかな笑みを浮かべる。とても温和で、服装が軍服でないならそこらにいてもおかしくないおじさんだ。軍人の様には見えない。
くすっと笑った剳乱はペア、班を書いた紙をウィルに渡した。
「昨日のあの剥奪の意味はこういうことだったのね」
「ああ。まあ、昨日の出来事がなければなかったでまたペアは組ませたんだがな」
「それはそれは……またどうして?」
「君はどう思う、剳乱?」
ウィルの相変わらず何を考えているかわからない笑顔に、剳乱はそうだねえ、とニコニコしながら考える。ウィルがそう問う時は大抵、企んでいるのだ。
わかった、と子供のように無邪気な声で言う。
「本当は、あの2人のペア、うまくいきそうだと思うんでしょ?」
「……理由としては?」
「あの2人、利害が一致してるからねえ」
その通り、とウィルは満足そうに頷きながら椅子に体を沈めた。剳乱は楽しそうな笑顔を浮かべながらウィルを見る。
「バロム君はペアを組むにはあまりに相手のことを考えなさすぎる。自分のことが基本中心。そして、それに対しての実力があまりに他と違いすぎる。
対して、君の息子君は実力はバロム君に劣るものの、ウィル君の息子であるだけあって実力はトップレベル。狙撃に関しては君でも負けるかと思わせるほど。でも、周りを考えすぎるあまり、実力を出し切ることを迷ってる」
「それだけ分析できてるなら、情報部門は安心だな」
ウィルはお茶をすすり、にっこりと笑う。でも、と剳乱はくすっと意味ありげに微笑みを浮かべる。
「これでうまくいくならいいけどねえ……二人の性格上、前途多難だよ?」
「いいじゃないか、前途多難で。結果的によければいいんだ」
ウィルは本当に楽しげに笑う。その笑みの下で、何を考えているのかわからないのだけれども。剳乱はそんなウィルに苦笑した。我が軍の大将らしいな、と。


ヒカリはそっと大将の部屋を外から見上げる。いつものような笑顔を消して。外にいる人の何人が、あのリクと大将とあともう一人の存在に気付いているんだろう、やりとりに気付いているんだろう。
ヒカリは怒鳴っていそうなリクに対して、だから言ったじゃん、と小さくつぶやく。
そんな呆れを含んだ言葉を吐いたヒカリを、大将の部屋で爆笑していた一人がちらっと見て、にんまりと笑った。




To Be Continued……
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