フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

Record Of A War In Cross World  9話

リクが食堂に入ったのはいつもの時間帯から随分後だった。
いつもだったらこの時間には情報塔に戻っているけど、僕のストレス発散&リクのストレスはけ口の貴重な時間だ。何かあったのなら、尚更僕はここに残った方がいい。僕の夜のためにも。
僕は笑みを浮かべたままリクに近づく。機嫌は悪そうだが、まあ、慣れた。昼食とっておいたよ、と言うとほんの少し瞳がゆらぎ、小さい声でサンキュ、と言った。
僕はコイツに苦笑しながら、席につく。すっかり冷えてしまったが、なくなるよりはマシだ。リクも同じことを思ったらしく、いただきます、と言って箸を手にする。
食堂のご飯は正直おいしい。そこらの店よりはずっと。冷めたらさすがに多少は味は落ちるが、バランスのよく、ボリュームもあるメニュー。日替わりでメニューも豊富だから嬉しい。
リクは黙々と食べ続ける。誰が見ても話しかけるな、という雰囲気を醸し出している。
「……何かあった?」
そんなの当たり前だが無視するが。
リクはピタッと食べるのをやめる。ここは食堂だし、少しは悪態も手加減するつもりだ。話によっては豹変する可能性もなくはないけどな。
「……ヒカリ、しばらく一人で食べてくれないか」
「……理由はー?」
僕はニコニコしながらリクに聞き返す。
リクと食べると言う名目で僕は情報部門の連中とかの誘いを断ってきた。リクの精神的な不安定状態が後にまわって来るのを僕は知っているし、正直猫かぶったまま一日すごすのもだるいものがある。
かといって、理由を聞かずに却下したらまたコイツのイライラがたまるだけだ。僕の悪態にイラッとしたとしても、それ以上にコイツのイライラを解消しなきゃいけない。そうすることによって、コイツは僕に爆発しないで済むのだ。
リクは言いにくそうだが、その、と言葉を続ける。
「……教官の命令で、ペアで昼食を摂れと。……けど、アイツを食堂に連れてくるのは難しそうだし、しばらくこれぐらいのギリギリな時間になる。お前を巻き込むのは申し訳ない、先に食べててくれ」
その静かな声。コイツの口から聞くとは思っていなかった僕への配慮。その言葉に社交辞令でも、上っ面の配慮を含んではいない。そんなことぐらいで、そんな心遣い使ってどうすんだ。
僕の顔から自然と笑みがこぼれ、リクに言う。
「やだね♪」
「ヒカリ」
「だって理由聞いたって僕の意見考慮してないでしょ?僕は君に悪態をついてストレス発散しているんだし、君だって自分でそのイライラどうにかできるほど器用じゃない。時間がギリギリになるぐらい、どうってことないよ」
リクは眉をひそめ、再びご飯を食べ始める。そろそろ食べ終わらなければ午後の訓練がきつくなるのだ。
僕が言うことは一切嘘なんかない。
僕の意見を聞いてないし、そう思ってることは事実。
バロムとかいう人と昼食……考えただけで笑えてくる光景だ。まず、あのペアから言って連れてくることも、食べさせること、何もかもが大変だ。その連れてくる段階で大変だと言うのに、一人で抱え込んでどうにかしようとするとかバカだ。この僕に色々愚痴ることで少しだけでもストレスを晴らしているのに。一人で何とかできるほど器用でも、強くもないくせに。


……でも、少しだけ思ったのは、よく、その命令から逃げ出さなかったな、って。
ペアを突き放した。共に昼食を摂らなかった。
別に大した罰にはならない。
むしろ、こんな昼食にまでそんな口出しをすることに、例え命令だろうとペナルティは相当小さい。
だから……逃げ出すこともできたはずだ。どうやってもペナルティなど重くはできないのだから。でも、逃げなかった。逃げてもおかしくないのに。
「……今日はどうしてきた?」
「……命令に従う、とだけ。……時間的にも厳しかったから諦めてきた。今日は反省文書いて終りにする」
「あらあら、バロムのせいとか言わないのー?」
「本音はバロムのせいだと思ってはいる」
その言葉に僕の手が一瞬だけ止まる。僕が言うのもなんだが、そういう上っ面な感じが僕は嫌いだ。こういう奴ほど、上っ面がへたくそで、見ていられない。バロムのせいだと思って書く反省文など、教官がかわいそうだ。
僕はコイツに対して毒をほんの少し吐こうとした時、だが、とリクは言葉を続ける。
「ペアであることを忘れてアイツを責めたら、オレは本当にどうしようもない奴だ。オレがしたことを棚にあげて、ペアを責めるような卑怯者になりたくない。ペアである以上、アイツをできるだけ理解しようとするために、オレはアイツをできるだけ責めない」


その言葉を聞いた時、僕は軽く目を見開く。お人好しだとは思っていたし、喧嘩っ早い部分はあっても根はいいやつだ。でも、ここまで割り切ろうとしたんだ、って。随分と成長したこと。
実際に会ったらイラつくし、文句は絶えないが、と若干情けなく思ってる感じに呟くリクに、僕は笑いかけてやる。いつもの猫かぶりなんかじゃない笑顔で。
「へえ、少しは考えたねえ、リクにしては」
「何様だ、お前は」
「天使様♪」
「地獄の門番でもやってろ天使の皮をかぶった悪魔」
相変わらず僕に対しての突っ込み。呆れてるし、イラッともしたようだ。やっぱりこの表情は見ていて飽きない。
合格と僕は心の中でつぶやき、ご飯を味噌汁で流し込んだ。



さあて……



どうやってあのペアを成立させようかな?



























バロム、と声をかける。あの命令を下された時からというもの、バロムはオレと口すらもきこうとしない。命令口調ばかりで、会話が成立しない。またスタスタと寄宿舎の方へと歩き出す。
バロム、もう一度声をかける。やっぱり無視される。今度は腕を掴み、名前を呼びかける。バロムは振り向き、うっとうしそうに、蔑むようにオレを見る。離せ、とだけ言ってオレの手を振り払おうとする。
それでも手を離す気など全くなかった。むしろ余計に力をこめたぐらいだ。
オレは息をゆっくり吸って声を吐きだす。
「……命令だ」
そんな言葉にやはりバロムは不快そうに眉を寄せる。オレだってそうしたいぐらい不快だ。だが、メシが不味くなろうと、コイツを食堂に連れて行く。
まずは命令だから、そして、コイツがペアだから。
訓練だけでうまくいかないのであれば、もっと努力は必要だ。その機会を与えたんだろう、恐らく。いい迷惑ではあるのだが、そんなこと言っていられない。
「だから何故我がそんな命令に従わねばならんのだ、くだらん」
「バロム」
「我が名を呼ぶな、腰抜けの愚か者」
「名前で呼べ、お前は。……バロム、メシくらい食え」
そう言うとますます不機嫌そうになって、バロムは強くオレの手を振り払う。オレも今度は大人しく離す。バロムはこっちを蔑んだままで、じっと睨む。
人を睨むな、言葉遣いに気をつけろ、先走るな。何度オレはコイツに注意しただろうか。まあ、全く改善する雰囲気すらないから何度も言うはめになるのだが。
コイツの顔を見るだけでもイライラはする。それを飲み込み、毎日毎日同じことを言う。
「食堂、行くぞ」
「……」
バロムは呆れた表情とため息を一つついて、オレに背中を向ける。
ああ、今日もダメか。オレは指先をまた噛んでいた。爪がもうボロボロになっている。
オレはまだ、コイツとの距離の取り方も、許容される範囲も、わからないままだ。他と違うアイツを、まだわからないでいる。
正直な気持ちとしては早くペアを変えてしまいたい。上等兵になれば、ペアを選ぶ権利が復活する。そうしたら、また別の奴を見つけて組む。絶対にこの言動がわからないアイツよりは誰でもマシってもんだ。
だが、コイツのことをわかっていないで逃げるわけにはいかない。
……親父に近づくためにも。
オレはバロムの背中を見つめ、またギリギリになった時計を見ながら食堂に走り出した。
あの、毒舌なアイツがとっておく昼食を食べに。
明日だって、明後日だって言ってやる
「食堂、行くぞ」
大っ嫌いなコイツに向かって。


こんこん、とノックする音に、ジュバレは反応する。随分と夜は遅いし、あと30分もすれば点呼の時間になる。大体、赤い髪をした緑目の研修医のあの子みたいに自分の体調をすごい心配してくれてたり、他の人らがちゃかしに来たりしない(ここ一カ月はバロムが怖すぎて来るやつは相当いなくなったが)
一体誰なのかわからないまま、ジュバレはドアに向かう。これにバロムが反応を示すわけがなく、自分が立たねば居留守状態になる。
そんなことを思いながらもドアを開けると、目の前に自分より若干背が低い綺麗な少年が一人立っていた。すらりとした手足と華奢な体つき、それに釣り合うぐらいのかわいらしい顔と綺麗な青い目をして微笑んでいる。
その無邪気でかわいらしい笑顔にジュバレは惹かれる。とても魅力的なその笑顔は、彼の本能を誘っている。
ざっとその少年は姿勢をただし、夜分遅くにすみません、と丁寧な言葉でいう。どうやらジュバレが自分より階級が上だとわかったようだ。
「情報部門所属二等兵、ヒカリです。戦闘部門前衛部隊所属リクベルト=アウル二等兵のルームメイトです」
「リクベルト……ああ、バロムのペアのルームメイトってことか?」
はい、と元気よく答えるヒカリ。それにしても本当にかわいらしい……むしろ美しい、とすら言える。
「少し、リクとバロム二等兵のペアについて、バロム二等兵にお話がありまして」
バロムに、とジュバレはつぶやく。バロムのペアと言い、そのペアのルームメイトと言い、最近はバロムに用がある奴多いな、やっとこんな綺麗な友達でもできたのか?いや、バロムの様子から言ってそんな感じの奴じゃないか、と心の中でつぶやく。
少し長いので入ってもいいでしょうか、と声をかけられ、ジュバレははっとする。バロムの様子も落ち着いているようだし(顔は不機嫌そうだが)、ああ、と言っていれる。ありがとうございます、と一言言ってヒカリは中に入った。
そして近くにあった座布団を手にして、バロムの近くに座る。その行動の意味はよくはわからないのだが。
バロムは不機嫌そうに、何の用だ、と言う。ヒカリはニコニコ顔でバロムに向かって言葉を放つ。
「リクと食堂行ってくんない?」


「断る。貴様、あの腰抜けの愚か者の回し者か」
「いやあ、腰抜けの愚か者でも僕のルームメイトなんで、放っておけないんだよねえ、アイツが少しでも君のこと見放せば来る気なんて全くなかったけど」
ならばそのまま来なければいいものを、と相変わらずの見下した目で人を見る。ヒカリはそれにおののくことも、怒ることもしない。ただただ微笑みを浮かべ、バロムを見ている。
バロムはヒカリのリクがバロムを見放すという言葉に多少の不快を感じている。ますます不機嫌そうな顔になるが、ヒカリの笑顔は崩れないままだ。むしろ、少し楽しそうな感じすら伝わってくる。
ねえ、とヒカリは言葉を発する。
「このままだと君、この軍から追い出されるよ」
「……!!」
「僕が懸念しているのはそこだよ。君のその不可解とリクが言う行動。周りとの協調性もきわめて低いみたいだし、どんなに優秀でもペアですらうまくいかないなら、ウィル大将は見かねると思うよ」
「それを何故貴様に指摘されねばならん。ではあれか、我より遥かに劣った者同士が馴れ合った方がいいと言うのか?」
「うん、僕ならそう思うかなあ」
くだらない、とバロムは言い捨てる。ヒカリの意図は見えてこない。さっきからバロムのイライラを誘っているだけだ。見た目の華麗さとは反対に言っていることは多少きついし、イラッとさせる。
ヒカリは言葉を続ける。
「ペアでうまくいけばいいだけなのに」
「いちいち口出しされて、腹が立つ。あんな奴と我がペアなどと甚だしい」
「そら、うまくいかないよ、最初だもの、しかもお互い嫌いから始まっているし。……でも、リクは君のこと理解しようと努めているよ」
「だからどうした?」
「ペアがうまくいくだけでいいのに、それをしない。リクが君のことを理解しようと努めている。君らは上等兵になれば別れられる。
そして、ペアでうまくいかなすぎるとするのなら……改善しようとしないなら……軍はそれを認められるまで甘い組織じゃないよ。


リクにできることが、君はできないんだね、実力はあるのに」



バロムのイラついた顔は拳に凝縮され、ヒカリに繰り出された。
ボスっという音、ヒカリの笑みが崩れないまま、ヒカリはまた言葉を紡ぐ。
「……ギリギリの時間なら人は少ない。……そこに行くことができないことにはペア解消は遠くて軍から必要とされずにいられなくなるのは近いよ」
その笑みに、いくらかのあくどさが入り混じっていた。



To Be Continued……
すごい、見事なまでに話が進んでない((殴
まかせっきりにしてすまないorz
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