フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

Record Of A War In Cross World 15話

「あー、疲れたー!」
「お疲れ様〜、しっぶーいお茶でも淹れてよ」
自分で淹れろよ、とリクは文句も言いつつも荷物を自分の机の側に置き、キッチンに向かう。久々にリクのお茶を飲めると思うと、わくわくする。
リクはあのおいしい食事を提供してくれる食堂のおばちゃんに小さい頃から料理を教わっていたせいか、おいしいお茶の淹れ方を知っている。適温だし、甘みと渋さが程よく、香りがとてもいい。そこらの安いお茶でも、淹れ方をこだわればここまでおいしくなるんだ、って思うレベルである。僕のあんな雑の淹れ方したら、たださえも安いお茶であまりおいしいとは言い難いのがかなり渋くなるのは当たり前だ。
リクの表情から見るに、今日も若干うまくいかない部分はあったそうだ。まあ、何かをきっかけに劇的な変化を遂げたら漫画のようでかっこいいと思うかもしれないが、現実では正直気持ち悪くて仕方がない。
能力的には問題ない二人だし、あとは性格の一致ぐらいだろう。一番難しい部分なんだが。
リクは若干不機嫌そうに僕の、前にお茶を置く。本当、不機嫌そうなのだが、それでもお茶はおいしい。本当に不機嫌ならこんなおいしいお茶淹れてくれないし、まず、口もきいてくれない。僕はリクの機嫌を分析し、またお茶をすする。うん、おいしい。
はあ、とため息をつくリク。今日はあのクソ上司がいなかったから気分よく仕事もはかどった。その上、リクのこの、若干不機嫌な理由を聞けそうなため息に胸がときめく。どんな悪態つこうかな、と心の中で思う。
思って、顔にばんばん出しているけれども。
「……ヒカリ、なんだ、その楽しみそうな笑顔は」
「だって、リクがため息つくときって結構面白い愚痴聞けるし、あげ足とって悪態つくのが僕の趣味だ、って何度も言ったよね?」
「何度聞いても悪趣味なのは治らねえのか、おい」
残念ながら、治す気はさらさらない。あるのはこのどうしようもない好奇心だけだ。
リクは再び深いため息をつく。そのイラッとしてる顔の癒し効果は一体なんなんだろうか?わかりやすいし、もう、オレを癒すために生まれてきたのか、君は。
諦めたようにリクは一つため息をついて、話し出す。今日の訓練についてだ。
あのクソ上司がそんなところで油売っていたのか、と僕は露骨に顔をしかめる。そんな僕をリクは意外そうに見つめる。僕だって人間だし、嫌いな上司に対しては嫌な顔ぐらいはするさ。普段から行動は読めないわ、見透かした顔で見るわ、声うざいわ、あと何か弱点作ってくれないわ、とにかく嫌いなんだ。そんな上司が何をしようが文句は出るのだが、そんなとこで暇つぶしていたのかよ。
「……ヒカリ、全部声に出ているぞ」
「知ってる♪」
「………」
「……リクって結構あっさり反論やめるよね」
なんてつまらない奴なんだ。
リクは無言で僕の頭を軽くたたく。呆れているリクは、まあ、いいや、とため息をつく。今、まだあのクソ上司がそういう訓練場にいたことしか話されていない。バロムとかいう奴の話も出てこないし、文句にしては随分と短いし、物足りない感がある。
えー、と僕はいつものニコニコした顔でぶうたれる。僕としてはもっとどろっどろの話をぜひとも聞かせてもらいたいものだ。
突然リクはベッドの上に登り、布団をかぶる。もういい、という意思表示であり、彼なりに何か考えたいときにこうなる。つまり、もう話している途中で何か考え出したんだ。コイツ、僕の前では案外マイペース、且つ、無遠慮なんだな。僕も人のこと言えたもんじゃないけど。
ちっ、と僕は舌打ちをする。点呼は終わって、就寝時間には入っているものの、僕はまだ起きていたい。リクの愚痴も聞き損ねて若干機嫌悪いし。
僕は軽く上に羽織って、ドアに向かう。そうは言ってもまだ夜は冷える時期である。どっかいくのか、とお決まりの言葉をリクは言う。でも、僕は答えなかった。


今僕はどうしてか無性に戻りたいんだ。
君さえも知らない<僕>にね。


月が綺麗な晩だった。
僕は隠していたタバコを咥え、火をつける。ふうっと煙を吐きだし、また口に咥えた。リクにさえも見せたことがないぐらい、きっと僕の表情はないし、目も死んでることだろう。
タバコは僕がまだここに来なかった頃に吸い始めた。今でもあまり好きなものではないが、たまに無性に吸いたくなるのだ。禁煙できる範囲だし、あんまりタバコも安いとは言えない値段だから、リクも僕がタバコを吸うことには気づいてはいないと思うけど。
くしゃくしゃっと頭をかく。なんていうか、誰もいないという環境が久々で、この冷え切ったコンクリートの上に座る感覚がひどく懐かしい。
僕はまた煙を吐きだす。
そういえば、リクと出会ってまだ一カ月と少ししか経っていない。それなのに、アイツとは随分自分なりに気楽にうまくやれている。寮で暮らすしかないことに気づき、一日中、それこそ寝る時ぐらいしか人のこと考えないで済む時間がない、という現実に正直幻滅していたのだが、リクはそういうタイプじゃなかった。たまにいるんだよねえ、僕の本質を見ただけでわかっちゃう奴って。
そして、リクはそれを他言しないし、脅すタイプでもない。いい奴でも猫かぶったままで過ごす覚悟をしていたのに、こんなにも自分をさらけ出す最大ラインまで大丈夫で、気楽で、それに一緒にいて楽しい奴が寮で一緒だと、本当、嬉しい。
だからこそ……リクには潰れてほしくないな。こんな言い方したらリクに少しぐらいは気味悪がられるかもしれないけど、あくまで僕は自分自身のためだ。自分が一番可愛いと思うし、面白いことは大好きだ。リクがいれば、僕はまだこのままでいられると思うし、リクとバロムの二人の関係は正直見ていておもしろい。でも、もしもリクが潰れたら……。
「……あほらしい」
僕はつぶやいた。
リクは潰れない。あのお人好しが簡単に潰れるなら、とっくの昔にウィル大将につぶされてる。アイツの自主練を見る限り、ウィル大将は生易しい訓練なんかさせてないはずなんだから。
そして、潰れる前に僕がリクのフォローをするさ。僕自身がここに居るには、リクが適任なんだ。だから僕は、バロムという奴に会いにいったんだから。
……でも、


もっと素直になれない自分が
こんな風に周りを気にしてばかりで、自分を忘れがちな自分が
僕は僕自身が
一番愛おしくて、一番嫌いだっていう事実をアイツは教えているんだけどね


「……さて、戻りますか」
僕はタバコの火を消し、自前の灰皿に突っ込む。もう夜は遅いし、そろそろ朝に備えて眠るべきだ。リクは朝に弱いから蹴って起こしてやらないとね。
僕は立ち上がり、もう一度月を見た。うっとうしいほど明るいその光を、僕は恐らく無機質で無感情な目で見ていたんだろうね。





「……」
「……」
「……」
「……」
「……二人とも、何かしゃべったら?」
黙々と食事をするオレとバロムの横で、ヒカリが苦笑をしながら言う。確かに、オレらの間に会話なんていうものは皆無である。さすがにここまでペアをやっていればわかってくるが、コイツと会話するたんびにどうしてかケンカ寸前まで発展するし、そもそも話すほどのことが何もないことを会話にしようとしたらばっさり切り捨てられる。つまり、お互い黙っている方が結構無難に食事は終わると言うわけだ。
ずしっといきなり頭にのしかかる重み。食べようとしていた肉を掴み損ね、箸がばらばらと盆の上に落ちる。思わずうっとつまり、咳き込む。誰だ、いきなり人の頭に乗ってくるような奴は!!
「よっ、リク、久しぶりでもないな」
「!!」
親父、とまた思わず呼び慣れた方で言う。よく見ると、あらら、と昨日、余裕気に新米兵士たちの相手をしていた親父の右腕的存在で、情報部門のリーダーである剳乱中佐が後ろで笑って見ている。
「ウィルく〜ん、食事中にそうやって頭に腕おいたら、食べにくいでしょ〜?」
すまない、中佐。正直、そういう問題じゃないんだが。
バロムは大将と情報部門のリーダーをチラッと見て、顔をしかめてから何事もなかったかのように箸を進める。なんていうか、関わるなオーラをものすごい出している。さすがだな、バロム。一応、こんなにも緊張感ない親父と中佐だが、オレらより遥か上空と言っても過言でない程の地位にいるんだぞ。親父は確かに堅苦しいこととか嫌いだけれども、それでも、ここまで自我を通せるあたり、そこらの兵士にはまねできない。
ちなみに、全く褒めてない。
「食堂に来たらランチ終わっててさ〜、も〜、残念で仕方ないんだよ〜。リク〜、次の休みにメシ作ってくれ〜」
「親……大将、公私混合はよろしくないかと」
オレら以外に誰もいないからってさすがにこのオフっぷりはないわ。オン入るのも滅多にないのは言わないでおく。
堅い奴に育ちやがって、とか言いつつ、親父は隣のテーブルの椅子に座る。大将らしくないぐらいのにこやか〜な笑顔がものすごくイラッとくるのだが、言わないでおこう。その方がオレの身の安全を確保できるからな。
「……二人とも、剳乱のあの訓練に合格したそうじゃないか、おめでとう」
「……ありがとうございます」
「うっわ、リク、堅いな〜。オフにしろ、オフに。大将の命令だ」
「わ〜、ウィル君権力の使い方雑〜」
「……」
お願いだ、2人とも。
どうかもう少し上司としての自覚というか、品格を出してくれないか?
イラつきすぎてバロムとヒカリのオーラが明らかに別物になってきているから。ヒカリからなんか、滅多に見せないぐらいの純粋な嫌悪しまくる雰囲気が醸し出されているから、この天使のように美しい(と噂の)笑顔の下から。
やれやれ、とそんな雰囲気に気付いているのか、気づいていないのか親父は苦笑しながら頭をかく。
「バロム君はどーもオレのこと気に入らないみたいだなー」
「そらそうでしょー?自分らが悪いとは言え、ウィル君2人を殴るし、首根っこ掴むし、2人を組ませるし、やりたい放題やってるじゃーん」
「それもそうか」
あ、バロムのこめかみに青筋が立っている。オレは無言で親父に背を向け、ご飯をかきこむ。さっさと食べよう。バロムの怒りを止めるためにも、ヒカリのこの嫌悪感のどす黒さを何とかするためにも。
「……お山のてっぺんにいる気持ちはどうだい、バロム君?」
「……!!」
親父の声色が明らかに変わった。今までと変わらない笑顔のはずなのに、どうしてか、どこか威圧的で、且つ、挑戦的な声色だ。
何を考えているんだ、親父は。
オレは箸を止める。バロムは何も気にしないかのように黙々と食べ続けている。親父の言葉など聞く価値もない、と見下しているかのように。
「いい、眺めだろー?ペアさえいなければ、もっとできる、って少しくらい思っているんじゃないかい?」


「そうだとしたら失笑ものだよ、砂山の大将」


ピタッとバロムの動きが止まった。親父を見る目に、明らかな殺意がある。ヤバい、これは。親父が負けるとはかけらも思ってはいないが、とりあえず、何を考えているんだ、親父は。
ああ、いや、と親父は手を前でひらひらと振る。
「別にケンカは売ってるわけじゃないんだ」
「充分売ってるよー?ウィル君見てよ、バロム君のこめかみの青筋♪」
なんて楽しそうな笑顔なんだ、剳乱中佐。
「……何が言いたい」
「あー、つまりはー……


早く上等兵になればいいってことだ。ペアもうまくいかなかったらたどり着けない境地だぞー?」
「……くだらん。我は一人で行動したいだけだ。ペアなど、足手まといに他ならん」
「そういう意味じゃなくてさー……君みたいな人は、早く上等兵になっておいてほしいな、って、砂山の大将じゃ勿体ないし、それに、しごき甲斐がありそうだしな」


……しごく?


「……ウィル君、いきなりスカウト〜?」
「いや〜、大体考え着くだろ、君も」
「まあねえ、結構わかるようにはなってきだけどさ〜」
……待ってくれ、上等兵になったら、コイツに何が待っていると言うんだ。
「……戦闘部門特殊部隊、上等兵から特別に訓練を受け、その試験に合格した者だけが入れる部隊。
歴代大将は使うだけであまり訓練自体には関与しなかったが、ウィル大将は直々に訓練を行うことが多い。
特殊部隊というだけあって、難しいミッションをクリア、または少人数で高精度のことを行うのに必要不可欠の存在。つまりは、まあ、できる奴しか入れられない部隊、ってこと」
「説明ありがとう、ヒカリ。よくわかった」


つまりは、あの射撃以外負けたことがなさそうなバロムの力量を見よう、ってことか。
いい神経しているぜ、親父。
オレは小さな声でつぶやいた。



To Be Continued……
一か月以上遅れてごめんなさあああああい!!

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