フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

Record Of A War In Cross World  13話

物資の調達部隊がこちらにくる。随分夜も更け、そろそろ寄宿舎の点呼が始まる。一応寄宿舎のリーダーに連絡はしてあるから大丈夫なんだけど。
さっきまで勉強の一環としてある症例を20、30ぐらい読み込んでいたのだが、気がつけば真っ暗になっていて、またご飯を食べ損ねた。珍しく指導医さんや看護師さんから動かなくていいと言われてこの始末だ。勉強できる時間がもっともっとほしいし、やっぱり体力のなさを痛感する。お腹は空いたけど、この運搬されたものをしまう作業……つまり雑用をやらなければならない。医療班が一番知っているから。あと、自分に対しては薬草をたくさん見ることができる絶好の機会だ。お腹は空いたけど。
「エルク!」
そう名前を呼ばれて振り向く。にこにこした明るくて優しい笑顔の上等兵が一人、オレの前に立っている。ジュバレと言う人だ。背は高くて、赤紫の髪とオッドアイをしている。よくルームメイトにやられた、って言う理由で医療室に来る。一時期はあんまりにも来るから心配になって、ルームメイト交代した方がいいんじゃないかな、って言ったことがあるけど、笑顔で断られた。大丈夫だから、って。今でも心配なのはあまり変わらないけれど。
自分はその笑顔に思わずつられ、笑みを浮かべる。
「……ドールまでお疲れ様……ありがとう、薬草、きれる頃だったから……」
「大したことねえって、慣れているしな!それより、お前こそ大丈夫なのか、寄宿舎?」
「大丈夫……リーダーには物資の調達に関しての仕事があるから、って言ってきたから……」
しどろもどろになりながらもしゃべる。ジュバレが相手だとしどろもどろになりつつも、まだしゃべれる。落ち着くし、何を話そうか頭の中で整理できる。うまく喋れなくてもジュバレは急かしたり、イライラしたりしない。そして何より、笑顔にすごい安心感がある。
ジュバレはそっか、と言ってまた笑う。その笑顔に、ちゃんと話が伝わった、と思い、安堵する。
自分らのその光景に、他の調達部隊の人らが声をかけてくる。
「ジュバレー、お前だけ姫さんと話してずるいぞー」
「うっせえ、お前が声かけたらエルク怖がるだろうが」
……ずっと気になっているのだが、なんで自分、姫さんなんて呼ばれているんだろう?そんなに弱々しく、小さく見えるのかな……?確かに16で150cm代前半だし、筋肉ないし、戦闘部門の軍人さんたちから見たら弱々しい感じは致し方ないし。姉さんだらけで育ったから女々しいのかな……?
そう考えるとちょっとへこむ。ここに来てどうしてそんなに女の子みたいに扱われるのかよくわからない。嫌われてはいないようだけれど……。
「姫さんはみんなの癒しなんだから独り占め禁止だぞ!」
「えー、禁止するとかずりい!オレだってエルクといたい、いたい!」
「まあたお前は、姫さんが可愛いからって声をかけて仲良くなりやがって……少しはオレらと姫さんしゃべらせる手伝いをしろよ、ったく」
「んなの野郎は自分で何とか努力して仲良くしろっつうの」
ひでえ、と笑う上等兵さん達。可愛い言われると少しへこむことにあまり気づいていない様子だ。気にし過ぎてもあれだと思いはするが、やっぱり気になる。自分、男だし。
目の前にしたら大きい分怖いし、怯むけど、根はいい人たちとは知っている。他の部隊と比べたらあまり目立たないのが傷だけれど、それ以上に安心できるぐらいみんな優しいし、穏やかだ。そういうの見ていて落ち着く。
そう言えば、と自分はふっと思い出す。今日、手当てされに来た二人の兵士を。その二人の話を聞いて、少しびっくりしたことがあったことが脳裏をよぎる。ジュバレに少しくらいは関係あることだ。だって、ジュバレのルームメイトの話なんだ。
「……ジュバレ……その……」
ん?と自分の方を向くジュバレ。一瞬だけ声がでなくなるが、ジュバレのその笑顔に落ち着き、自然と声を出せるようになる。
「……ジュバレの……その……ルームメイト……」
「ん、ああ、バロムか?アイツがどうした?やっぱリクと何か衝突でもあったか?」
「……多分……そうだと思うけど……」
あー、またかー、と言ってジュバレは苦笑いをする。ジュバレのルームメイトがこういう騒動起こした次の日に、ジュバレがボコボコにされてくる。頻繁だから、本当に心配なのだけれど、本人がいい、というなら自分は何もすることがない。
その、と声を言いかけた時に、指導医の怒鳴り声が耳に響く。自分はハッとし、すみません、と言って指導医の元に行こうと体の向きを変える。向きを変え切る前に、自分はジュバレを見た。あ、ワリイ、と言って申し訳なさそうに笑うジュバレに、自分は、
「……食堂に行ったみたい」
と言って駆け出した。


「……え?」


ジュバレの驚いた声がずっと後ろから聞こえた。






リクが点呼ギリギリになって風呂から帰ってくる。リクはどうしてかは知らないのだが、人前で裸になろうとかしない(変な意味ではなく)
絶対に、人がいない時を見計らって、風呂に行くのだ。僕も一度はリクのその徹底ぶりが気になって、一緒に行こうとしたのだが、すごい形相でにらまれ、殺気に満ちた低い声でついてくるなと言われた。この状態になったことは今までなかったから少々びっくりしたが、まあ、何か見られたくないものでもあるんだろう。それ以上追及したら僕の命がヤバくなりそうだったからそこで引いたのだけれど。
それにしても今日の食堂でのケンカは見物だった。あそこであのクソ上司が来なきゃもとよかったのだが、それを差し引いても十分見応えがあった。
あの二人のことだから危険だし、側にいない方がいい。何より遠くで見ていた方がおもしろいことになるかもしれないと思ったが、案の定、近くにいなくてよかったし、本当、またひと騒動起こしてくれた。
おばちゃんには世話になっていたことは聞いていたし、なじみ深い味を捨てられようとすればそら、怒るわな。僕でも同じ言葉を浴びせたな、うん。
点呼にギリギリ間に合ったリクは、寮長に名前を呼ばれて返事をし、寮長の合図で一斉に部屋に入る。これで20分後には消灯だ。騒がなければ別にもっと遅くまで起きてていいのだが、訓練の疲れもあるし、さっさと寝た方が得策だ。
部屋に戻ってきてからリクは僕と一言も口をきいていない。僕としても、戻りたての時のリクは怒っているのとは違ったけど、何か考えているようだったし、邪魔したらまた枕を持ってサンドバックにならなきゃだめだ。あれって結構痛いから。
お風呂に入ってきたせいか、リクのあのよくわかんない雰囲気が多少和らいでいる。今だったら少しくらいは大丈夫かな?
そう思って、ねえ、と声をかける。あんな騒動起こした割には随分と穏やかな声で何だ、と返してくる。あらら、本当、穏やかなもんだ。
「……あの後、何かあったの?」
「……何でそう思うんだ?」
「リクにしては随分静かなもんで」
お前はオレをなんだと思ってやがる、とぶつぶつ文句を言いつつ、リクは自分のベッドに向かう。そして、上のベッドに登り、天井から下がっているカーテンを引いた。
僕はクスッと笑い、電気を消して感覚でベッドに向かう。そして、自分の布団の中にもぐりこんだ。
「……ねえ、何かあったんでしょ?」
こんなにリクが大人しいのは。
しばしシンっと静かな暗闇が続き、別に、と呟くリク。何もなかったわけない。そう思ったとき、リクがだるそうに言う。
「……悪かったな、と反省してもらったぐらいだ」


「……へえ」
僕のこの純粋に感嘆した声に、リクはもう反応しなかった。
僕は思わず笑みをこぼし、目を閉じる。





少しは二人の距離は縮まってるといいな。


To Be Continued……
今回の話を作るための力の源
エル君登場((殴

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