フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

外伝2

スタッと降り立つ。相変わらず身軽なもんだ、猫らしく。あたしはそんなクズ猫……イクを見て思わずひゅーと口笛を吹く。随分と高いところから飛び降りたのに、あんな風に着地できるあたり猫だな。
「リナ、早くしろ」
「ったく、うっせえな」
あたしはアイツと違ってそんなに身軽ではない。だから飛び降りるなんてことはできない。足場を探し、そこを使って降りる。地道に降りなきゃ足をケガする。
上から何かくる。あたしの足元を貫く。ちっ……追ってきやがった。全く……。
「てめえがドジっていなきゃもう少し楽にいけたのに……」
「オレのせいかよ!?」
イクがいるところまで着地し、一気に駆け抜ける。地面についたならあたしらの方が確実に足は速い。獣族は全般にノーマルの数倍の脚力を持つ。それがどれくらいかはバラバラだが、まあ、ノーマルに追いつかれることはまずない。
イクはぶつぶつ文句言いながら何かを抱えている。その何かを手放したら、とりあえず、コイツを殺す。人が命がけで情報を手に入れてきたうえ、手伝わされているんだからな。
イクが突然、茂みに入る。あたしもためらいもなく茂みに飛び込んだ。その先に何があるかは、あたしらがよく知っているからな。


「……遅い、臭い、部屋に入るな」
「なら自分で取りに行けよ、エルク……!!」
いつもながら仮面をかぶったかのように無表情な赤い髪のそいつに、不機嫌そうにイクはそれを投げつける。結構本気で。エルクは全く謝りもせず、なんなくそれを受け取る。これだけは無事だったしな。
まあ、実際のところ相当臭いだろう。なぜなら下水道を這って逃げてきたんだからな。しかも雨水なんて易しいもんじゃない。生活で出てくる排水なんだから……わかるだろ?
エルクはお礼も何もしない。いつもとは言え、本当、礼儀がなってない。仕方ないと言えば仕方ないが、少しくらい感謝してほしいものだ。確かに、魔法はかなり使えるし、強いと言えば強いが、本番に弱く、しかも体力もある方じゃない。だからこういうものを取りに行くには不向き。
それをあたしやイクがなんとかして手に入れているのだ。当たり前と思われるのが腹立たしい。言っても、何をいっているのかわからない、とばかりに見るだけだが。
エルクが今度は顔をしかめる。感情を表したと言うより、ただ純粋にこう言いたいのだろう。
「風呂に入れ、臭すぎる」
「てめえ、少しくらい感謝してから物言え……!」
同感。


イクは猫の耳としっぽを持つ。メガネはあたしの父、ハクの趣味でかけさせている。実際似合うがな。
みすぼらしい捨て猫だったコイツを父さんが拾ってきた。ただ、何があったのかわからないが、人間が大嫌いで、あたしやエルクにさえ触られることを嫌がる。父さん以外に触れられても平気な奴はあたしは知らない。
いつも周りに牙をむける。そして、他人を恐れている。何もしないと言っても、恐れ、嫌い、逃げていく。変な奴と言えば、変な奴だ。
エルクは赤い髪と緑の目を持つ。この世界ではこういう奴は珍しく、そして、悪魔の象徴とされるものの塊だ。笑ってるところや泣いてるところ、怒っているところなんて一切見たことがないくらい、感情を表に出さない。別に我慢しているわけではなく、本当、感情が薄いらしい。
この悪魔の象徴の塊が世界に認められるわけがなく、幼い頃は本当、ひどい虐待をされたそうだ。その跡は今でも残っている。傷跡、痣なんて当たり前、気持ち悪い「悪魔殺しの呪い」の呪文が体に刻み込まれている。意識がある中、ここま刻まれたとは……大した家族だな。
そんなエルクが家族を殺し、父さんに連れてこられたのは8年も昔の話。12歳になったら、突然小鳥の羽を捥いでカラクリ人形に改造したりときちがいなことはたくさんやってる。
こんな二人の個性的というか……変な奴らの中で一番年下であるのがなんか許せないのは、あたしがまだ子供だからだろうか?
「っと!」
頭を下げ、とっさにメスをよける。イクとエルクがケンカし始めた。エルクは感情は表には出さないが、顔の話。結構行動に出ると訂正しておこう。だから……。
あたしはソファを盾にする。途端に、流れ弾ならぬ流れメスがドスドスと音をたててソファにめり込んだ。本当、こいつら……。
「喧嘩するなら外でやれ、お前ら!」
「「だって、こいつが」」
「だってじゃねえだろ、おい! どっちもどっちだ、しまいにゃしばくぞ!!」
なんであたし、こんな奴らのケンカの仲裁(?)をやってるんだ……。


数日後、あたしに仕事の依頼がきた。
……ある少女を誘拐しろ、だってさ。