フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

カケラ 1

幼い手で求めていた。まだ生きたいと泣いていた。
君は世間では生きてはならない人間の種類と言われていて、これまでに何度となく命を狙われただろう。
オレは君をそんな目に合わせた側の人間なのに、君はそれでもすがるような目で、すがるような表情で、オレに言う。
助けて、と。
オレはその手を掴んで、その幼い体を抱きしめた。


「アブノーマルなのでしょう? なら、即刻始末すべきではないのですか?」
冷たい目線。この上司から言って、んなことだろうとは容易に想像できたが、実際聞いてみると、ひでえ言い草だ。まあ、この世間からいって、もっともだが。
この国では、生きてはいけないと言われ、迫害されるアブノーマル達の立場を改善するように努めてきた。そのおかげもあって、アブノーマルたちの奴隷制は廃止され、実力のあるものは重宝されるようになった。
だが、まだ、根は全く改善されていない。むしろ悪化した部分もあるぐらいだ。
元々よく思われていないアブノーマルが世間でノーマルたちと同じように存在することが許せない輩はまだまだたくさんいる。アブノーマルは滅ぼさなければならないと言い張る人も少なくはない。
1500年。
1500年という長い時間、オレらノーマルはアブノーマルを支配してきたのだ。
いきなり、アブノーマルと共存しろといわれても、そう簡単に変えられない。少し残酷だがな。
「中将、まだ幼い子供ですよ? いても問題ないのでは?」
「幼い子供と見て、なめてはいけません。敵国のスパイかもしれないでしょう?」
「そうには見えないんですけどねえ」
わざとらしく少々大きな声でつぶやいてみる。すると、上司はオレを鼻で笑う。スパイがスパイとわかるような格好をしているかと。へいへい、それはもっともですね。あなたが正しいですよー。
「まあ、あなたの言い分もわからなくはないですね」
「でしょう?」
「ですが、これは私やあなたが決めることではありません」
ですよねえ……。オレはため息をつく。大体予想はついてはいたが、まあ、ここまでうまくいかないとはな。
上司はそんなオレを見てくすりと笑う。
「まあ、あなたが言うのなら、少々様子を見るよう上にも言っておきましょう。……ケガが治るまでですけどね」
これだから、オレは、昇格を蹴ってまで、何かと部下に甘いこの人の下につくんだな。


乱雑にちらかされた部屋。
随分と派手にやったもんだ。オレはひっくり返ったイスをまたぎ、オレの部下たちのところへと行く。部下たちによって取り押さえられている幼い影。右腕とアバラ5本、弾傷を腹部に2箇所。そんな大ケガしているというのに、よくここまで暴れられたものだ。
幸いなことに足と左腕は無傷。まあ、こんだけケガしていて、そこまでポジティブになれるかと言ったら、そうでもないだろう。むしろ、オレみたいな動くことを得意とする奴には、もうそれだけでもかなりの痛手だ。
コイツがここに来て、二週間。見つけた時にはかなりひどい状態で、拾った途端に意識を失い、つい5日前まで生死の境をさまよっていた。それが目を覚ました途端に、これだ。暴れること、暴れること……。よく言えば、元気がいいんだな。
「あんま乱暴すんなよ。仮にもガキで骨何本も折る重傷を負ってんだからよ」
「しかし……」
離せ、と言いたそうな反抗的な目のその子供。その目は美しいぐらい鮮やかな赤色。その赤い目は、オレらの世界では差別される人間の証の一つだと言われるのだがな。
オレは部下にその子供を手放すように言う。部下は不服そうに、警戒しながら、子供の左腕から手を離す。案の定、子供は駆け出す。出口に向かって。
おっと、と言ってオレは子供の傷にダメージを与えないようにして捕まえる。オレの腕に思いっきり噛みついてくる。部下がそれを止めようとするが、オレは目で手を出すな、と伝えた。
怖いだろうな。
怖がっているんだ、コイツは。
何も話そうとしない。
何も言おうとしない。
逃げ出したいだろうな。
コイツが何を見てきたか知らないが、この怯え方は知っている。
アブノーマルと呼ばれる人間の子供が、どれほど理不尽で、残酷な差別を受け、迫害をされてきたのか。
だからこそオレは、そいつに向かって笑う。噛みつかれすぎて、血まで出てるけどな。
「安心しろ、って言っても安心できねえよなあ……。そんなに噛むなよ、痛いぞ?」
「……」
それでもなお噛みついた手を離そうとしない。しょうがないなあ……。
ひょいっと幼い体を持ち上げる。子供はびっくりしたのか口を腕から離す。
「殴られるかと思ったか?」
その言葉にビクッと反応する子供。だろうな。部下の血の気の多い奴らなら、もっと手前で殴っているだろう。でも、こういう奴には殴るのは逆効果。さらにパニックになって暴れるだけだ。でも、さすがにあれは痛かったから、抱き上げたことに対しては見逃してほしいものだ。
再びオレの手の中で暴れる。だが、このオレの鍛えられた体に、大ケガした子供程度の暴れ方なんて、たかが知れている。すぐにオレはベッドにそいつを寝かせる。
「まだケガ治ってないんだから寝とけ。治ったら、好きなだけ暴れていいから、今は暴れると痛いぞー」
できるだけ優しく笑いかけてやる。ふいっと不機嫌そうに、且つ無言でオレの笑みを無視するそいつ。
かっわいくねえ。オレは思わず苦く笑った。


無言の時は続いた。
しゃべれないことはなさそうだ。声は聞いたことある。
だが、独り言とかそういうものでしかない。
ちゃんとオレや部下に向かってしゃべったり、何か伝えたりしない。そもそも名前すらオレらは知らないのだ。
コイツが何を思い、何を求め、何をしたくて、何を見てきて、何を聞いてきて、何を味わてきたか。何一つオレは知らない。助けてと泣いたあの時を思い出す。
生きたいことは知っている。それをコイツは叫んで、オレに助けを求めたのだから。
だからそれ以上のことをオレは知りたい。コイツのことを、人間として扱いたい。ノーマルとか、アブノーマルとか、そういうのではなく、一人の者として。
知ったから何と言われそうだな。自嘲的に笑ってみせるオレ。
でも知りたいんだから仕方がないよな。だって、助けてと、軍人で言い換えれば人殺しのオレに純粋に生きたいと、そう願うあんな目をされたらそうするしかないじゃないか。
だから、何かしゃべってくれよ。
オレは君のことを助けたいんだ。君に生きる方法を教えたいんだ


あれほどの大ケガが尋常じゃない速さで治っていく。あれから1週間、もう動いても問題ない程度まで回復している。瞳の色から言って竜族か吸血族か……。どちらにしろ、ノーマルより自然治癒力は高いことには変わりはない。
それにしても、まあ、暴れること暴れること……。部下からの苦情はもうこれで何度聞いたかわからない。逃げようとするたびに部下に見つかり、取り押さえられて暴れる。その繰り返しだ。
そろそろいいかもな……オレはアイツが反抗的な目でこっちを睨んでいるのを見て、そうつぶやいた。
「……なあ、お前、いい体しているな」
「……」
「こんな小さいところで暴れないで、いっちょオレと勝負して思いっきり暴れてみないか? 負けた方は、オレの部屋掃除ってことで」
部下が、その賭けおかしくないですか、と笑いながら突っ込む。
「どっちにしろ、オレの超絶汚い部屋が綺麗になるのだから、結果オーライだ。つまり、オレは勝ったら丸儲け、負けても自業自得。おいしいじゃないか」
「いや、少将しか得しないじゃないですか」
「うるせえなあ……。わーったよ。オレが負けたら、お前ら全員コイツにジュース奢れ」
「わあ!! 少将、自分が負けた時の責任を部下に押し付けると言うのですか!!」
るっせえな、どうせオレが負けるとか思っていないんだろうが、コイツら。
そんな風に騒ぐ部下とオレをそいつはじっと見つめ、小さくうなずいてみせた。少々不機嫌そうな表情で。
オレは自分の銃と腰に携えてある剣を部下に渡す。部下の一人がオレに木刀を出すが、オレは断る。でも、と困っている部下にオレは笑って言う。
「んなもん、毎日のように訓練している大の男が、ケガ治りたての子供に使うとか大人気ねえだろ。素手はハンデだ、ハンデ」
「自分が片付けられないからって部屋掃除を賭けることはいい歳した大人の男がすることですかー?」
そのコメントについては全力スルーする。


渡された木刀を無言で構えるそいつ。まあ、ガキにしては上出来な方だが、まだまだ甘いな。
オレはニコニコしながらそいつにかかってこいと言う。思いっきり、オレと勝負してみろと。そいつの瞳が揺れる。一瞬だけそいつは目を閉じた。
開いた瞬間、そいつの姿はそこにはない。オレの目の前で木刀を思いっきり振りおろす。空気からいってそうだとは思ったが、ケガ治りたてとは思えないほどの速さだ。オレは難なくそれをよける。自分からハンデを付けたとはいえ、木刀をまともに食らったら痛いしな。
オレより20cmほど小さい体で、そいつは左手で棒を振るい続ける。右左上右下。怒涛のような攻撃。なるほどなあ……。
ひょいっと木刀を避けると同時に体を屈め、そいつの体を掴んで放り投げる。やはり軽いな。
態勢を一気に崩されたそいつが次に構える前にオレはそいつの木刀を蹴りあげる。軽い音がして木刀は上へとあがる。
急に自分の武器を取り上げられたというのに、そいつはやけに冷静だった。見たことがないほど、ガキとは思えない程。
オレの蹴りあげられた足を地面につけないうちに、もう片方の足を思いっきり蹴り、鳩尾を狙ってパンチを繰り出す。
パシッと軽い音。
オレがこいつのパンチを止めたからだ。別になんてことはない。オレがこれぐらいの蹴りでバランスを崩すわけがないし、パンチぐらい、読めないわけがない。こいつは……素手の方が強いようだ。
「……もっと本気で来ていいんだぞ?」
にやっと笑うと、ぴくっとそいつの眉が動く。次の瞬間、オレから後ろにとびさる。構え、誘っているかのようなその態度。オレはその誘いに乗りはしない。乗ってやってもいいが、これが別の意味を指さなければの話だ。
ちょうどそいつの誘いに乗っていたらいたであろう場所に木刀が降ってきて地面に刺さる。ちっ、という舌打ちをして、そいつは木刀を素早く抜いてオレに向かってきた。
コイツは戦闘慣れしているのレベルじゃない。この戦い方はコイツの才能だ。あの攻撃これほど生かすとは、正直驚きだ。
そいつの木刀の動きを読みながら、オレはそいつに笑いかける。正直、楽しくて仕方がない。この戦い方は自己流で、隙だらけだし、正式ではない。だが、オレはコイツの戦い方が好きだ。とてもおもしろい。ちゃんとしたやり方をある程度教えれば、こいつはきっと、自己流のやり方でも十分強くなるだろう。
何が楽しい。
そう言いたげなその反抗的な赤い目。オレを見る目は、よくわからないが、憎悪に燃えていた。……いや、オレを見ると言うより、オレを含む大きな何かを憎むかのように見ている。
オレはそいつの木刀を素手で動きを止める。ぐぐっと力をこめられる。憎しみが、怒りが、オレへと向かっていく。
思いっきりそいつをこめろ。全力でぶつかってこい。
オレはそう笑った。



To Be Continued……