フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

マリオネット もう一つのBAD END1

足払いされ、地面に叩きつけられる。とっさに受け身を取ったものの、その衝撃は体に直撃し、じんわりと痛んでくる。無駄だとわかっていながらも、このなんとも言えない恐怖に耐えられず、起き上がって逃げようとした。
「!!」
ぐいっと足を引っ張られ、次の瞬間、誰かの足がオレの腹を踏みつける。この前、撃たれ、まだ傷口がふさがっていないところをわざと。その痛みに叫び声をあげかけた。なんとか歯を食いしばり、そいつの顔を見る。
ヘラリととした笑み。
こんなことしそうにないほど温和な笑顔だ。それが逆に恐ろしく感じさせる。目は暗く、見るのが恐ろしくなってくる。
そいつはにっと笑い、足をどけ、片手でオレの両手を捕まえて後ろに組ませる。カチャンっという金属音と、冷たい感触。手を離されても、オレの腕は後ろに組んだまま。何度動かしても冷たい感触とガチャガチャという音しか聞こえない。
この状況、知っている。
また、やられる。
そう口にした瞬間、汗がぶわっとわいてくる。なのに、体は震えて、寒くてたまらない。
そいつの顔を見る。さっきから全くと言っていいほど変わらない笑顔だが、その目は、まるで何か汚い物でも見るかのような蔑み含んでいて、背筋が凍りつく。何言ってんの? あれくらいで済むと思ったの? あますぎるよ、君……。その言葉がどれほど残酷なことか、コイツは知っているのだろうか?
昨日やられたことに苦しむオレを
コイツが怖くて怖くてたまらないオレを
そんなにも絶望させたいのか?
「なんでこんなことをする?」
聞いても無駄なことをオレは聞いている。そいつはとても涼しげな顔でオレを見て、服に手を伸ばす。そして、口元に薄っぺらい笑顔を張り付け、口を開く。
そんなの理解しているのに、聞かなきゃ不安なのだ。どうせ、一番……
「暇つぶし」
救われない言葉なのにさ。


腹の傷に指を突っ込まれる。気持ち悪さと、突然の激痛に、体がビクンっと反応する。汗が吹き出し、痛みに体の全てがおかしくなりそうだ。傷口は掻き回され、治りかけていた傷が開いて、血がダクダクと流れ出す。動かされるたびに激痛に悶え、この痛みから解放されようと必死に手を動かすも、むなしくガチャガチャという無機質な音しか響かない。そんなオレを、アイツはただ嘲笑っていた。
もっと楽しませて、と耳元で囁かれ、次の瞬間、胸に違和感を覚える。痛みと気持ち悪さがまざり、震えが止まらない。やめて、と言いたくて、それを遮るかのように体全体を激痛や気持ち悪さが覆っていく。


吐き出したい。
逃げ出したい。
もうやめて。
痛いよ。
苦しいよ。
もう十分苦しんでいるだろ?
何を望むんだ、オレに。
もっと苦しめと?
もっと壊れろと?


この感覚は覚えている。ずーっと昔、これしかない場所にいたから。
ねえ、なんであんな場所のこと思い出すの?
思い出したくもない場所なのに……。
答えは簡単だけど、出したくない。
それを、認めたくない。
今、ここが、あそこと同じ場所に変わろうとしているなんて。
「キミ、素質あるねえ」
突然囁かれる。痛くて、気持ち悪くて、吐きそうで、泣きそうで、苦しくてたまらないオレに対して。一体何の……? いい答えなんて期待してない。もう、何言われても、コイツの口からはオレを傷つける言葉しか出てこないんだ。
わかっているのに聞いてる。
わかっているのに気になる。
答えないでよ。
耳をふさぎたいよ。
これをほどいて。
へラッと笑い、そいつは答えるんだ。とても嬉しそうに、楽しそうに。
「人から嫌われること、いじめられること、傷つけられること、苦痛に歪むことをされること、差別されること」
まとめるとM体質だよね。
その笑顔に、オレの目から涙があふれ出す。


オレは……


誰のサンドバックじゃないのに


ただ生きたいと、救われたいと、願っているだけなのに


なんで……


なんでみんなオレをそんなにいじめる……?


ねえ……


答えろよ……


オレがそういうことされるのは


オレがそうやって生まれついたからだというのですか?


オレが全て悪いと言うのですか?




「逃げても、追いつけるからこんなことしないで大人しくしてたらいいと思うよ? 僕を怒らせないうちに」
へラッと笑ったままのアイツ。オレはそいつの顔を見つめたまま不自由な手と、何とか足をつかって床を這っていく。さっきの腹の傷がずきずきと痛む。
早く
早くここからいなくなりたい。
コイツの顔を見ていたくない。
それでも、この魔法をかけている限り、アイツから目を離したらいけないんだ。目を離したら、またいたぶられる。さっきの何倍にもなって。
ヘラヘラとした笑顔が気持ち悪い。
この身勝手な奴から、一刻も早く。
オレの魔法によって動けないでいるそいつに、自分勝手だな、と言う。そう、自分勝手だ。屁理屈にもなっていない。なんでお前が怒るんだ。怒りたくて、泣きたくて、逃げたいのはオレの方なのに。
そうしたら、そいつは嗤うんだ。何をバカなことを言うんだ、って言いたそうに。
「自分勝手だからさ♪単純でいいでしょ? 君というもので遊んでいるの。不良品だったら、誰でも怒ったり、不機嫌になるでしょ?」
そう言い放てるそいつ。ずきっと胸が痛む。感情がないはずのオレに、胸の底から何かがせりあがってくる。何かの感情が湧き上がってくる。


不良品


物で、しかもできそこない


っこういうのって笑うべきなのか?


何かでかき消したいこの感情。苦しい。悲しい。辛い。そんなのが胸に溢れかえる。感情を押さえられなくなりそうだ。それぐらい、胸がいっぱいになる。オレの視界が一瞬だけ、この感情のせいでそれる。


次の瞬間、壁まで蹴り飛ばされ、腹の傷を強く踏みにじられることになるなんて。
視界が眩む。
痛みが体全身を覆う。受け身を取り損ね、さっきからかきまぜられたりしてぐちゃぐちゃになった傷口を土足で踏みいじられているから。
ニヤニヤしながらそいつはオレを見下ろす。ゴミでも見ているような蔑んだ目で、嘲りを含む笑いを浮かべ。ぎりっとさらに強く踏みつけられ、オレは叫び声を上げそうになる。痛い。痛い。痛いと表現できないくらい痛い。
「ど〜したの? 隙なんて見せちゃって。やっぱり襲って欲しいんだあ?……ねえ? 不良品?」
ギリッ
また強く踏みつけられる。その圧迫感と激痛にむせ返る。のどの奥から血の味がしてくる。睨みつけるが、そいつは本当に楽しそうにしか笑っていない。むしろ、嬉しささえ見える。
「……ち……が……」
「違うの? 何が違うの? 心当たりがある時点で違わないけどね? 
ねえ、まだもがくの? 君が生きてなんなんだというの? 必要とされてないくせに」
嘲笑う顔が、蔑む目が、怖くて、怖くて、逃げてしまいたい。
泣きたい。
消えてしまいたい。
ねえ、痛い。
言葉を聞くたび、ここらへんがナイフで抉られるかのように痛いんだ。
痛い。
痛いよ。
何度も言葉が頭の中でリピートされるんだ。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……
狂ったかのように痛いとつぶやき、涙を流すオレを、アイツは本当に楽しそうに見ている。これが、正しいオモチャの使い方で、それで遊ぶかのよう。こんなオレを見るのが、楽しいと言わんばかりに。
「そう!! 君なんて必要とされてないんだからさあ!! こうやって暇つぶしの対象となってもらえるだけ感謝してよねえ? 相手にしてもらえるんだからさあ!!」


一体、オレはどこまで救われないのかな?
ないはずの心が痛いよ。
痛い。
そんなオレの傷口をいじくり、オレの体に触れるそいつはとてもどうでもよさそうに囁く。つまらないことをするな、と言わんばかりに。
「君の気持ちなんて、どうでもいいよ。興味ないんだからさあ……。
痛い?
可哀想?
哀れ?
泣きたい?
悔しい?
辛い?
虚しい?
消えたい?
苦しい?」
あはは、と笑われる。興味がないと言い捨てられた感情たちは、コイツにとって、ただ嘲笑うだけのものに過ぎず、そんなオレを面白がるだけなんだ。
勝手してよ。
勝手に言ってろよ。
もう好きにしてよ。
もう聞きたくないんだから。
味わいたくないんだから。
オレが苦しむ姿が見たいんだろ? 見ているじゃないか、今、目の前で。すごく胸が痛くて、体が痛くて、もがいている一人の無様な奴の姿が。ねえ、充分苦しいよ。オレは苦しくて苦しくて仕方ないのに。
そんなオレの髪を掴み、そいつはオレの顔を自分に寄せる。どんなに嫌がろうともこの顔から背けられない。ひたすら闇しか広がってない目と、こんな状況でもヘラヘラ笑うその顔から。
「……言ったでしょ? 何もかもわからなくなるほど苦しめてあげるって」
ほら、喜んでよ! 楽しそうに笑うそいつは、更に髪を強く引っ張る。嫌でも顔を上げなければならず、首が痛い。その痛みにも耐えるオレがよっぽど面白いのか、そいつは心の底から楽しそうに見える。
「嬉しいでしょ? 君のために尽くしてあげるんだからさあ!!」
「っ!!」
急に襲う体の気持ち悪さ。顔は乱暴に床に叩きつけられる。背中を折られそうなくらい踏みつけられ、ミシミシという嫌な音と激痛がオレを襲う。
嫌だ。
誰もお前に尽くしてほしいと思ってない。
オレに関わらないでよ。
何されるかわからなくて怖い。
怖くて、怖くて、さっきから震えが全く止まらない。
もうやめてよ。
苦しい。
苦しい。
苦しい。


こんな時にも救われたいと願うオレは、一体なんなんだろう。
こんなことされて、もう辛くてたまらないけれど、助かる道なんてないとわかっている。
それでも助かりたい。
救われたい。
怖いんだ、このまま自分がいなくなりそうで。
幼い自分を思い出す。
嫌だ。
幼い時のようになりたくない。
自分が見えなくなりたくない。
助けて。
怖いよ。
一人で消えるの嫌だ。
誰にも必要とされてないけれど、生きる価値なんて微塵もないとは知っているけれど、一人は嫌だ……。


「別に構わないよ」
そう耳元で囁かれる。あまりに突然で、言いそうにないことだったから、一体なんだか一瞬わからなかった。オレをいたぶる手が止まる。お腹の傷がズキズキと痛む。そんなオレの目をそいつはまっすぐ見つめてきた。
「会いたいんでしょ? 会うだけでいい? 話はしなくていい? 話もしたい? 最後なんだから叶えられる望みくらい叶えてやるよ」
その後は僕の好きなようにさせてもらうけどね? とにっこり笑いながら話しかけてくる。さっきとはうってかわって優しい声で。
その声に寒気がしてくる。これは罠だとどっかの誰かが警鐘を鳴らす。
それでも……
「……」
こくっとうなずくオレは、どれほど迷惑な奴なんだろう。会いたいと言うのだ。この男がくれる最後の望みに、誰かを巻き込もうとしている。
許してくれなくてもいい。
それでも、どうせ消えてしまうのなら、
何もかもわからなくなるほど壊されてしまうのなら、
せめてあの人にもう一度会いたい。
声を聞いておきたい。
どうせ救われたいという願いが叶わないのなら、会いたい。
あの人に。
じゃないと、今すぐにでもこの身が壊れそうだ。
「……最後の希望くらいは嬉しそうにしようよ? ねっ?」
そうやってそいつは、何かを企んだ嬉しそうな笑顔でオレの顔をなでたんだ。