フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

※いつもながら若干鬱っぽい
※ジュバレ×エルクと、いわゆるBL((
※エルクのオリストとの差が激しい
※ジュバレ君が書けているか微妙
※マリオネットのハッピーエンドは考え中で、これはその後の設定
※彼には幸せになってもらいたいものだ








走る。
暗い中をひたすらかけていく。息は切れ、呼吸が苦しい。血の味すらしてくる。でも、走るのはやめられない。後ろの暗い暗い闇から何かが追ってくる。姿の見えない誰かが、何人も。聞き覚えのある声ばかりが聞こえてくる。その内容までは聞こえない。聞こえたくもないけれど。
怖い。見えない誰かたちが、とてもとても。
追ってこないで。オレの願いとは裏腹に、そいつらはひたすら追ってくる。オレがこんなに苦しくなるくらい走っているのに、その足音たちは消えない。歩いている速度にしか聞こえないのに。怖くて、怖くて、涙が出てくる。
暗いのが怖い。
闇しか見えない。
出口はどこなの?
何もわからなくて、走ること以外できなくて、逃れたくて、必死になる。
『逃げたって無駄なのにね』
くすりと笑う誰かの声。それと同時に足に貫かれるような痛みが走る。撃たれたかのような熱い激痛。右足からとめどなく赤い液体が流れる。
次の瞬間、見えない誰かに頭を踏みつけられる。土足で踏まれ、頭がミシミシいって、とてつもなく痛い。何本もの手がオレの服を引き裂き、オレのこの一生残る文字を背負った体を傷つけていく。
殴られ、蹴られ、踏まれ、斬られ、刺され……
覚えのある激痛たちに叫び声をあげる。それに追い打ちをかけるかのようにさっきまで何を言っているか理解できなかった言葉たちが、オレの胸に突き刺さってくる。
『せーぜー暇つぶしの道具にしかならないくせに』
『悪魔が!!』
『お前なんているだけ無駄無駄』
『ただのゴミですらお前よりはマシだろうよ』
『誰にも愛されない』
『生きてて何になるの?』


『お前、生まれてこなければよかったな』




「エルク!!」
耳元で急に大きな声でそう呼ばれる。はっと目を覚ます。オッドアイのアイツ、ジュバレが、心配そうにオレの顔を覗き込んでいる。とっさにオレはジュバレの服にしがみつく。そのまま胸に顔をうずめる。
嗚咽が漏れる。さっきの光景がまだはっきりと頭の中にこびりつき、あの声たちは何度も何度も何度も耳の奥でリピートされる。夢とは思えないほどのあの激痛たちがまだ体に残っていて、涙がとめどなく流れる。体の震えが全く止まらない。
そんなオレをジュバレは優しい手つきで抱きしめる。オレの頭を何度もなでながら囁く。
「大丈夫じゃなさそうだな。怖い夢でも見たか?」
「……」
こくんっとうなずく。
「……すごく……怖い……夢……」
「……そうか。お前がそんなに怯えるなら、すごく怖かっただろうな。大丈夫。それは夢だからな」
オレがいるから。そう言い、更に強く抱きしめられる。抱きしめられる感触は心地よく、少しずつ安心してくる。この温もりが本物だと感じると、不思議とさっきまで止まらなかった震えがおさまり始め、呼吸が安定してくる。夢のせいで思い出していたあの激痛たちは、どこかへと消えていく。
ジュバレの胸に耳をあてると鼓動が聞こえてくる。リズムよくなる鼓動に、また、ジュバレがそこにいるのだと安心する。これは夢ではないと、心の底からほっとする。
汗かいてんな、お前、と突然言われる。確かに、さっきまで全然気が付かなかった。汗で髪が張りつき、布団にまで残るくらい、びしょびしょだというのに。
不意に手が離される。ちょっと着替えとタオル、持ってくるな、と優しい手つきで頭をなでられる。安心し、震えが止まってきたオレが大丈夫かな、と思ったらしい。
でも、オレは……
「……ん? ど、どうした?」
「……行くなよ……」
「?」
「まだ……一人にするなよ……」
困らせるとわかっていながらも、言わずにいられない。離れたら、また不安になって、泣きそうだ。今度はあの闇に、ジュバレが飲み込まれるんじゃないかと、そんな錯覚に陥る。
だから、一人にしないで。そうオレはジュバレの顔を見つめる。
ジュバレは笑い、わかったよ、と言ってオレを抱き上げる。こうすりゃ着替えに行けるし、汗ふけるだろ、とドヤ顔で言ってくる。なんでドヤ顔なんだ、と半分呆れながらも、オレはそのジュバレの笑顔に、ほっと安心する。その行動は、色々な面では危なっかしいが、それでも、すごく、落ち着く。
ジュバレの首に手をまきつけ、しっかりと抱き着く。ジュバレはそんなオレをタオルと着替えのある部屋にと運んで行った。


「ほいよ、ホットミルク。汁粉じゃなくて、本当によかったのか?」
「……人がいつも汁粉しか飲んでいないみたいに言うな……。ミルクの方が寝る前はいい……」
へえ、と言うジュバレの横で、オレは熱いミルクを飲む。本当は砂糖が入っている方がいいのだが、今日はそんな気分じゃない。
ミルクを飲むオレの横で、ジュバレがオレの顔を見てる。その目は相変わらずだ。
オレは口を開く。
「……真っ暗の……闇の中ずっと走っていて……大勢の誰かに追いかけられ続けた……。出口が全く見えなくて……歩けなくなって……いっぱい傷つけられて……嫌な言葉ばかり聞こえて……もがいても……もがいても……抜け出せなくて……」
それで……と言いかけると、ジュバレに手で止められる。オレの手がまた震えていることに気が付いたようだ。オレの頭をなでる。やっぱり優しい手つきで。
「……記憶が……怖い……。でも……ないと……自分が壊れそう……」
「……記憶をなくさなくても、思い出さなければいい話だぜ、そんなの」
そうニッと笑って、オレを抱きしめる。まだミルクは残っていたけれど、それを側の棚に置いて、オレはジュバレに抱きしめられ続けた。すごく、安心する。
「……夢でも思い出さないくらい、楽しい思い出作ればいい。オレが守ってやるから、な?」
「……ジュバ……レ……」
その言葉に、また泣きそうになる。今度は悲しいわけでもなんでもないけれど。こんな時まで感情を表に出せないオレにもどかしさを感じる。オレはジュバレの温もりに、ずっと触れていたかった。
ゆっくり寝ろよ、ここにいるから。そう言って、オレを抱きしめて布団に寝る。その腕に安心し、目を閉じる。あの夢のことなど思い出さないぐらい、深い眠りへと。


あの夢は、オレのトラウマを具現化したものだろう。
過去に本当にあったことだし、その過去のトラウマは消えるはずがない。
だから、オレは何度でもあの夢を見るだろう。
全てを忘れてしまわないかぎり、一生、この夢に縛られる。
でも……もし、この夢から解放される日がきたなら……


ジュバレに精一杯の笑顔で言いたいな。
「ありがとう」と。



fin