フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

マリオネット 〜記憶の彼方〜

何があったんだっけ?
思いだそうとするたびに頭が痛くなる。まるで、思い出すなと言わんばかりに。
すっと気がつくと左手に手を触れている。もうすでにない青くて綺麗だった指輪と、不格好ながらも綺麗な腕輪。あれは一体何だったのかわからない。何一つとして思い出せない。
でも、大事だった。
それだけは知っている。あれはなくしちゃいけない物だったんだ。消されちゃいけないものだったんだ。あれがオレの何かになっていたんだ。何かの証だったんだ。
だって、あの二つが消えた瞬間、オレの中で何かが消えたんだ。大事で、大事で、なくしたくないくらいの何かが綺麗さっぱりと。誰かが泣いてる幻と共に。
その二つの代わりにもらった首輪に手を触れる。ゴツゴツしていって、ひどく冷たい。一体なんでこんなにも冷たいのかわからないくらい。触るたびに背筋がぞくっとする。
怖い。
この首輪がどうしようもないくらいに。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
はずしたくて、またがちゃがちゃといじる。
はずれることなんてないくらい頑丈で、無駄だと言う。嫌悪感だけあるのに、はずしたくてたまらないのに。
何してるの、と声をかけられる。
びくっと肩を震わせる。後ろを振り向くと、あの人がいる。優しげな微笑みを浮かべ、オレに近寄る。さも愛しげにオレに近づき、オレの赤い髪を梳く。その手はひどく冷たくて、ぞくっとする。
オレは何でもない、と首を横にふる。首輪についた鎖がじゃらじゃらと鳴る。その音がひどく無機質で、嫌だ。怖い。
覚えてる、この音を。
思い出せない記憶の中で、聞いたことがあるんだ。
愛されてないことも、一人だったことも、思い出せないのにわかるんだ。その中にこんな無機質で、心に響かない音がずっとずっと鳴っている。
それなのに、オレは何か覚えている。この手じゃなくて、誰かの大きくて優しくて温かくて、そんな手を知っている。
どこで? 
誰の手?
そこになるとひどくもやもやして思い出せない。頭が痛くなる。
大丈夫? とあの人はオレに笑いかける。大丈夫とオレは小さな声で答える。抱きよせられ、オレの肩がビクリと動く。それでも、抵抗するなんてこと、オレにはできなかった。オレにはこの人しかいない。この人がいなかったらオレは一人だ。
一人は嫌でしょう?
そう囁かれるたびにうなずくしかない。
一人は嫌だ、一人は怖い。
だったら、と笑いかけるその人。言うこと聞けるよね、と言われる。言うこと聞けるとしか答えられない。
オレはこの人の所有物。この人がいなければ一人っきりで生きるしかないんだ。一人がどれだけ怖いか、オレは知っている。知っているからこそ、一人は嫌だ。
その人の手が下に伸びる。ビクンッと体が震える。
嫌悪感に全身包まれる。体がこわばり、動かなくなる。緊張して、落ち着かない。怖くて、それでもやめてと言えなくて。
ビクッ
また体が反応する。嫌悪感ばかりが増していく。それでも、振り払っちゃダメだ。そうなったら一人だもの。


ねえ、記憶があった頃のオレ。
オレは、記憶があった頃、ずっとこんな感じで生きてきたのですか?
オレは物としてしか生かされなかったのですか?
ねえ、一人は怖かったですか?
それとも・・・・・・


君には本当にオレを人間として受け止めてくれる人が存在したのですか?