フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

怒気

ぼうっとした目で宙を見つめる彼。
かわいそうに。
オレはそうつぶやく。彼の目を見てわかる。彼は決して幸せなんかではない。
彼はここで記憶を失った。彼の愛しい人をその手で殺す手伝いをさせられて。
もちろん彼は悪いだろう。
なぜなら彼は精神的にとても弱い。その弱いのをどうにかしようとしなかったのだから。でも、人に頼って、愛されることを知らなかったら、精神的には強くなったかもしれないけれど、でも、逆に何者も受け付けない体になっていたかもしれない。
どっちがよかったかなんて今はもう言えない。でも、今の状況よりは遙かにマシだっただろう。


彼の肩がピクリと動く。アイツの顔を見て、目がまた暗くなる。嫌いにならないで。そう言いつつも、彼はアイツを恐れていた。
彼は極度に一人を恐れる。小さい頃から慣れてきたことが、ここではそうならなくてよくて、安心して、愛されて、愛してきたのだから。もう、それを知った彼はなかなか元には戻れない。
アイツはそれに漬け込んだ。彼が記憶なくて、誰のことも覚えていないことをいいことに、彼を閉じこめ、外界との関係を絶った。だから彼にはアイツしかいない。
アイツがどんなに嫌がることをしようと、彼はそれは自分がアイツの所有物だから仕方ないと思って我慢する。そうやって傷ついていく。怖いという感情を、嫌だという感情を、全部全部押さえつけて。
一人にならないように、心を傷つけてまで一人は嫌だと言って彼はアイツに踊らされる。
マリオネットだな、まるで。
そうオレは呟く。
早く彼を助けなければ、あの人形のようになる前に、感情を完全に失う前に、彼に本物を渡さなきゃ。彼が手にする偽物は、彼にとって傷つくものでしかないのだから。
オレは彼の姿から目をそらす。息を吸い、自分でもびっくりするほど怒気を含んだ声で呟く。
「調子に乗るのもいい加減にしろ、剳乱」