フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

Record Of A War In Cross World  11話

ウィルが何か考えている。
剳乱がウィルにお茶を出してからずっと何かを考え続けているのだ。とても真剣な顔で。
剳乱はいつものようににっこりと笑ったままどうしたの?とウィルに声をかける。彼がこういう顔をするときは、大抵、大したことじゃない。大したことがあるときはもっと、こう……威厳と威圧の素晴らしいコラボレーションで、相手を引かせるのだから。
ウィルは口を開く。
「……実はオレはコーヒー派なんだ」
このように。
剳乱は苦笑し、また、と肩を軽くすくめる。
「わがまま言わないでよ〜、ルーサンからの輸入によって少しはコーヒー豆があるとしても、コーヒーは高いんだし〜」
「いいや、オレはコーヒーが飲みたい」
「自分で買いに行けばいいでしょ〜?僕は嫌だよ、わざわざコーヒー豆買いに行くなんて、高いのは目に見えるし。そもそも何で今このタイミング言うの、目の前にお茶があるのに」
「今日、ドールに何人か行っただろ、大佐と上等兵。アイツらにみやげとして買ってきてもらう、金はあとで払うとして」
当たり前、そして兵をパシるんだ、と剳乱は呆れつつも笑う。
実際、コーヒーはこの国にとって相当高い物ではある。地形といい、気候といい、この国には適さない。コーヒー豆を作るのに適してるルーサンがレディスティアに植民地支配されていた時なんか、コーヒーなんてものはヘタすれば、100gで高級レストランでフルコース食べる時の値段ぐらいはした。
今はドールのおかげで独立を果たし、ここミラノスとの外交も上々だが、相変わらず、コーヒー豆だけは依然として高い。さすがに植民地時代の3分の1には下がったものの、兵士の月給で買うには酷な高さだ。大将の望みだとしても、さすがにそれはやったら反感を買う。
「確かに、ドールで買えば、ここの3分の2の値段で手に入れられるけどさあ……誰がいれるのよ、そんなの」
「決まっているじゃないか、剳乱、お前だ」
「僕はお茶係じゃないのにぃ、大将が僕をこき使うー」
ぶーと不満げに笑って言う剳乱に、ウィルは豪快に笑う。大将とは思えないほどのその笑い方に、剳乱も思わずつられて笑った。
さて、と言ってウィルはお茶をすすりつつ、席を立つ。
「そろそろ食堂もすく頃だろ、行こうじゃないか」
はいはい、と言って剳乱はウィルのその言葉にため息をつきつつ、微笑んで見せた。




食堂に入ると、ヒカリが待っていた。人が少ない時間を選んできた結果、結局コイツの説得のため、ギリギリまで粘っていた時と大体同じ時間になったから、ヒカリはそこまで驚いてはいなかった。
……後ろからついてきた奴の不機嫌そうな顔を見ても、若干楽しげに笑ったぐらいだ。
バロムはヒカリの顔を見た途端にチッと舌打ちをした。あ、絶対ヒカリ、オレが風呂に行っている間に何かしたな……。
そうは言ってもヒカリとバロムは接点はあまりないはずだし、バロムがここまで不快感をあらわにするなんざ(実際、オレはよくわからないうちに嫌われていたのだが)なんか挑発的なことを言ったんだろう。様子から言って楽しんでやがるし、オレでもイラッとくるぐらいだ。
ヒカリははい、とオレに食事を渡す。今日はチキンソテーオニオンソース、味噌汁、サラダ、ご飯だ。それにプラスして唐揚げものっている。おばちゃんは相変わらずサービス精神満点なようだ。冷めたのを食べるのがもったいないぐらいだ。
ヒカリはバロムに向かって愛想よく笑うが、バロムはますます不快感を顔に表す。まあ、ヒカリのこのよくできた愛想笑いに見えない愛想笑いは不快だろうな。オレは一言ヒカリにサンキュ、とだけ言って席についた。
この時間、兵の数は少なく、ざっと見てもちらほらとしかいない。先輩である上等兵や、中には大尉、大佐、教官である上司にあたる人らがいるだけだ。コイツの言うゴミ箱と呼ばれるような乱雑な感じはあまりしない。
食堂を見回し、バロムはふんっ、と鼻で笑ってオレの向かいにつく。こういってはなんだが、やはりコイツの不機嫌そうな顔を見ると、イラッとする。ヤバい、本気でメシがまずくなりそうなぐらい不機嫌。
やっぱり、あの勝負を引きずっているのか……。さすがにど真ん中はなかなかいけるもんじゃないしな。それでもコイツだって真ん中をほんの少しずれただけで、精度はなかなかなもので、それは高く評価された。
でも、オレも多少ながらわかるが、負けたくない相手に負けた時の屈辱感は相当なものだ。例え、どんなに精度がよく、許容範囲だろうと。オレは未だにコイツのことを理解できないが、まあ、プライドがめちゃくちゃ高いのだ、この男。この実力から言って、無理はないのだが、それでオレに負けた。オレ、首絞められるんじゃないか、と思うほどの殺気をあの後からずっと感じている。
ま、少しぐらいは勝ちを譲るべきだ、てか、そもそもペアでうまくいかない理由はバロムにもあるし、ペアでの鬱憤も勝ったら少しは晴れた。食堂にはどうにか連れてこれたしな。
さあて……どう食わせればいいんだ、コイツに。


「はい、今日の昼食」
ヒカリは笑って(若干バカにしているように見えた)バロムの前におく。バロムは顔をしかめ、何だ、これは、と言う。
ヒカリはそんな言葉も予想したようにすらすらと言葉を発する。
「昼食。わざわざ説明してほしいほど君もバカじゃないと思うけど」
あ、周りに兵がいないことをいいことに、少し悪態ついたな。やはりバカにされたのがわかったのか、バロムはムッとしている。ヒカリは言葉を続ける。
「でも、まあ、ここのご飯はおいしいし、バランスもよく考えられて作られている。食事は立派な栄養補給なんだから、食べた方が得策」
カロリーメイトなんかで軍人務まる君ってすごいね、と皮肉を言ってヒカリは自分の冷めた昼食を持って行った。さすがにオレとバロムが本来うまいはずの昼食をたがいの顔を見てるがゆえにまずそうに、且つ不機嫌に食べるのが嫌なのか、それとも、ただ単に高みの見物をしたいのか。どっちでもいいんだがな、正直。まあ、まだ残っていた昼食の温かい方をわざわざとってきただけまだマシなんだろうが。
バロムがその悪態に席を立ちそうになるのを無理に腕を掴んで止める。
「やめておけ、アイツを敵に回したら真面目に軍に居られなくなるぞ」
アイツの信者によって、アイツの嘘とかによって、あながちウソではない脅しだ。
何の権限があって、と言うバロムに、オレは殺気をこめて言う。
「いいから座れ、文句なら自分に言え、負けたのはお前なんだからよ」
ぐっと不満げで不機嫌で不快そうな顔をしながらもしぶしぶつく。これで暴走したらどうしようかと思ったが、まあ、なんとかなった。
とにかく、今日の目的は達成される。コイツと食堂で食事を摂る。まあ、明日もあるんだが。オレはため息をつき、味噌汁を手にして一口すすった。冷めているのが本当に残念なぐらい、おいしい。
食堂のご飯は幼い頃から食べ慣れている。親父が料理ができなかったのもあって、食堂のおばちゃんに苦笑いされながらも、よく作ってもらい、食堂で親父と一緒に食べたものだ。今でもおばちゃんの料理は好きだ。
そのおばちゃんはさすがに最近歳をとったせいか体のあちこちが痛いようだが、その味に変わりはない。ほっとするような、安心でき、しみじみとおいしいと感じれる。大きくなってからは親父のしごきの合間におばちゃんの料理の手伝いをした。オレの嫌いなものがほとんどないのも、このおばちゃんの作る料理のおかげともいえる。卵とか苦手だった時が懐かしい。
今、このご飯を食べている間に、そんなことを思い出した。軍に入ってからは手伝いもできないし、色々あったから顔も見せていないけれど、味は健在のようだ。
肉に手を付けた時、オレはバロムの様子に気づく。一切、手をつけようとせず、気難しい顔でにらんだままだ。
オレと違ってせっかく温かいままのご飯だと言うのに、ゴミでも見ているかのような目でご飯を見つめ、動かない。肉を口に放り込んで咀嚼するオレに気付いたバロムは、オレをまたあの蔑むような目でみる。
何なんだ、その目は。オレはまたイラッとする。何でそんな目でおばちゃんが作ったご飯を見られるのか、わからない。なんでゴミを見る目で、最初からまずいものだと決めつけられるのかわからない。
それでも、バロムはその目をやめなかった。
オレは不快に思いつつもご飯を食べ続ける。時間が時間だし、そろそろ食べきらないと間に合わない。コイツの目を無視して、肉にまた手を付け、口の中に放り込んだ。
ガタッと突如バロムは席を立つ。そして、その温かいままの食事を手に向かったのは……残飯を捨てるゴミ箱だった。


オレは立ち上がり、だっと駆け寄る。今までコイツの理解ができない行動に悩まされ続けたが、今回が一番意味がわからなかったかもしれない。それと同時に、どうしようもないくらいの怒りが湧き上がった。
バロムもまた不快そうに顔をしかめ、何だ、と言う。なんだじゃない。こっちのセリフだ。
「……てめえ、今何をしようとした?」
「ふむ、ここの昼食を捨てようとしていたな」
不機嫌そうに、淡々と言うバロム。オレはバロムの腕を強い力でガッと掴む。爪すらたてて、めり込みそうな程強く。
「……我の口には合わん」
「っ!!」
「見た目から言ってあわん、不味い物食わされるぐらいなら」


捨てた方がマシだ





おばちゃん、ごめん、と言ってオレは皿と茶碗を手にした。何をするつもりかわかっていないバロムの足を素早く払い、バランスを崩したバロムの顔に向かって、叩きつける。


シンっと静まり返った食堂。


食べ物だらけのバロムが何が起きたのか理解できていないままそこにいる。


頭がどんどん痛くなっていく。
ストレスでボロボロになった爪と指が、痛くなっていく。



「―っだったら、のたれ死ねよ」
自分でも驚くほど冷たくて、威圧的で、殺意が込められた声が口から出た。目の前が、暗くなるほどに。


To Be Continued……
ひよりsのおかげで食堂での出来事が書きやすかったぜ……!!
さあ、やらかしてしまいましたねwwwww
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