フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

WATCHMAN GAME 3

「あったあった」

 彗は道の端に落ちていた自分のカバンを拾い、パンパンと埃を払った。まだ買って2,3カ月のカバンに、多少の汚れはあるが、まあ、いい。いずれ汚れただろうし。

 カバンの中を確認すると中には、人がいる街にいたと彗が認識した最後の日、その日の次の日の教科の教科書が入っていた。テスト用紙も数枚入っていて、彗は確認する。

「……うっわ、英語48点、数学53点、化学65点……」

 やっぱちゃんと勉強しとけばよかったなあ、と彗は苦く笑う。中途半端で、決して褒められた点数ではないと彗は思っている。姉さんに怒られるなあ、と彗は呟いた。もっとも、その彗の姉という人物が、この街にいるとは思えないが。

 彗はカバンを持ち、山の方を見た。

 結局、誰一人見つけることはできなかった。駅の構内を何周したか彗は覚えていない。何周も何周も周り、人がいる気配すらなくて、がっかりしながら次の場所に探しに行った。

 近くの百貨店、スーパー、コンビニ、ゲームセンター、オフィスビル……。結果的に、どこにも人はいなかった。物はある、だが、誰かがいた跡がないのだ。誰かが働いているようには見えないぐらい、そこは綺麗に片付いていて、その事実は十分彗をがっかりさせた。 

 日も随分落ち、あたりは大分暗くなってきたので、今日の所は諦めようと思い、彗は家に向かおうと思ったのだ。そのためには家の鍵が必要で、自分が目を覚ました場所に戻ってきたのだ。

 彗は点きはじめた街灯を見上げる。一番星が見えてきている。時刻はもう6時半を回っていた。彗の住む家は街灯が多いからいいが、色々物が見えづらい時間帯だ。急いで家に戻ろう。彗はカバンを持って自分がいる家へと走り出した。

 

 

 静かな家はいつ以来だろうか。いつも帰ってくると弟や妹が、彗を満面の笑顔で彗を向かいいれる。5人の子供を養うために共に働きにでている両親が帰ってくるまで、姉と一緒に家事をし、弟妹の面倒を見たものだ。

 彗は靴を脱ぎ、家に上がる。リビングとなっている部屋を覗くが、そこは綺麗に片付いていて、子供の姿は何もない。キッチンの方を見るが、いつもなら忙しそうに夕飯の支度をしている姉の姿もない。シンっとしたリビングには、彗の呼吸音さえ微かに響いて聞こえた。この家、こんなに静かだったのか。彗は思った。

 深く息をつき、彗は薄暗いリビングの明かりをつけた。正直疲れた。お腹も減ったし、何か食べて、今は休みたい。無造作にポケットに鍵を入れ、ブレザーとカバンをソファに放った。そして、冷蔵庫を開けた。

 

 

 自分の部屋に入ると、やっと身に覚えがある静けさが来る。自分が寝る前はいつも寝静まっていて、誰もいないかのようだった。彗はほっとし、お腹を満たしたその体をベッドに沈めた。ひどく眠く、肩が重い。ああ、疲れているんだな。彗は目を閉じる。

 誰もいないことが怖い。

 誰かいた形跡もないのが怖い。

 何も物音がしないのが嫌だ。

 でも、ここで目を閉じ、眠りに落ちてしまえば、なんだかこのことが夢のように思う気がする。これはきっとリアルな夢で、また目を覚ましたら、うるさい弟たちの声で目が覚めるんだ。

 そうやって自分に暗示をかけると、意識はゆっくりと深い闇へと沈んでいく。心のどこかで、何かに対して警鐘を鳴らしていると知っていながら。

 

 

 目が覚めた時、あの期待していたうるさい弟の声はしなかった。明るくもなく、窓の外を見ると、まだ深夜の様だ。空が真っ暗だ。携帯の時計を見ると、時刻は午前3時を回る頃だった。

 彗は言い知れぬ不安に駆られ、目が覚めていた。その不安の正体はわからないが、深く眠っているにも関わらず、彗の意識を一気に引き戻すほど、その不安は大きかった。苦しくなる胸を彗は抑える。呼吸が止まりそうで、鼓動がさっきからうるさい。彗は何か気づく。そして、息を止める。

 間違いない、誰かが彗の家にいる。だがそれが、彗が探していた人間ではないことを、彗の不安が優に物語っている。その誰かが、彗には会ってはいけない何かに思えて仕方がなかった。

ギッ……ギッ……

 少し古いこの家は、微かに床を鳴らす。この音からして、恐らく階段の前。上って来る気か。

 彗は物音を立てぬようそっとベッドを降りる。ベッドの下は収納スペースになっていて、いくらか物が置いてある。出しやすいようにその物を手前においてあるため、ベッドの奥のスペースは空いていることを彗は知っている。できるだけ音を立てぬよう。物をどかし、ベッドの奥のスペースに身を滑り込ませる。

 近い場所から音が聞こえた。彗の心拍数がぐんっと跳ねあがる。震え、力が入らない手を押さえ、何とか落ち着こうとする。大丈夫だ、まずは両親の寝室に向かったんだ。そう言い聞かせ、ベッドの下から物を引っ張る。物音を立てぬようそっとそれを置き直し、荷物の陰に身をひそめ、口から悲鳴が漏れぬよう手を当てた。

 コツ……コツ……

 姉の部屋にいる。壁1枚違うだけで、誰かが歩き回る音が鮮明に聞こえてくる。こんなホラー、見たことあるな。彗は不意にそう思った。

 姉の部屋を何かががさこそとしている。何か、探しているようだった。何か物音がするたびに彗の体はビクッビクッと反応し、小刻みに震える。何か、得体の知れない何かがいるのだ。

 彗のドアがゆっくりと開く。彗から滝のように冷や汗が流れる。あの隣からも聞こえてきたあの音が、今、彗の部屋に響いているのだ。彗が音を出さぬよう、ゆっくり息を吸う。その音は微かに彗の耳に届く。誰かは、何もせず、ただそこにいる。
そしてゆっくりと、彗のクローゼットに手を伸ばした。

 その誰かは、所々でくぐもった笑い声のようなものを発していた。何かを楽しそうに、さも楽しそうに。彗は、その誰かの顔を少しだけみたくなり、荷物と荷物の間に顔をのぞかせ、様子を見た。

 

 

 彗の気が遠くなるほど長くて短い時間、外から明るい日差しが差し込んでいた。気を失ったようにいつのまにか眠っていた彗ははっとする。体を起こし、昨日の晩のことを思い出す。そして、彗はぶるっと体を震わせた。

 

 

 彗が見たのは、少なくとも人間の形をしていたが、それは形のよく似た、何かだった。何かと言いようがない、人間の形をしているのに、全く別の物に思えたのだ。そして、その誰かは呟いたのだ。

「生ある者」がほしい、と……。

 

 

 

 

To Be Continued……