フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

知らない君

―いつかきっと終りはくるさ


―どんな状況だって生き残ってやる


―外の世界がどうなのか、お前は気にならないのか?


―外の世界に出よう


―お前と一緒に






ひょいっと訓練場を覗いてみる。若い連中が今日も元気よく返事をし、厳しい訓練を受けている。この光景は何度見ても飽きないものだ。
ルーサン総大将ロック様、と堅苦しく呼ばれる。オレはアイツと一緒で、あまり堅い言葉を好まない。堅苦しいこと言われても、オレやアイツみたいな奴にとっては違和感の塊以外何物でもない。
オレはにっこり笑い、できる限り優しく、フランクに悪い、とアイツの国の部下に言う。
アイツはどんな風に接しているのだろう。最初の頃は気になったものだ。アイツもオレと同じく、いや、オレ以上に堅苦しいことを好まない。そんなアイツが大将とか、本気かと疑ったほどだ。その国大丈夫か?という問いが真っ先に心の中で浮かんだのだが。
緩い感じのオレに戸惑いも何もせずに対応するあたり、アイツの部下たちもこの緩い感じに慣れている。恐らくアイツのせいで。思わずくすりと笑ってしまう。
何度も来たことがある部屋に案内され、オレはドアの向こう側に足を踏み入れた。
散らかされた部屋、ソファの上では誰かが寝そべっている。大きないびきをかき、手足をだらんっと無防備に投げ出している。
おいおい、オッサンのそんな姿、誰が見たいっていうんだよ、あと、一応仕事でオレ来ているのに、締りが相変わらずないな。
そんなことを心の中でため息交じりにつぶやく。部下の人らがあわててそいつを起こしにかかる。そりゃ、大将様がこの状態、過去の戦友とは言えど、限度があるだろ、限度が。限度ってもの知らんのかコイツは。
……知っているわけないか。
「……おい、ウィル、ウィリアム、お前、ルーサンの総大将が来てるって言うのに、なんでそんなにくつろぎモード全開なんだよ、おい」
答えはない。部下が起こしているって言うのに、まだ寝ているのだ。これでよく最前線で戦えたものだ。呆れて物が言えない。
おい、と声をかける。まだ返事はない。仕方なくオレは袖をまくり、ポキポキと手を鳴らす。こうなったら多少乱暴働くぐらいは許されるだろう。
「……起きろっつうの」
ぶんっとアイツの顔めがけて拳を振り下ろす。
パシッと言う軽い音。
あんなにも起きなかったアイツの手が、オレの拳を軽々と受け止めていた。
「……随分と遅刻してんじゃねえか、ロック」
おまけにいらん拳までつけやがって。
そう言って顔をわずかにあげ、苦笑してる。あーあ、オッサンのそんな顔を見て誰が得するって言うんだよ、全く。オレはオッサンの顔を拝むような趣味はねえぞ。
体を起こし、ウィルは大きなあくびと共に伸びをし、その後に頭をかいた。どこまでも自由奔放。これ、部下とか許してんのか?ていうか、こんなんでよく上に文句言われないもんだ。
「ウィル、お前、上層部に色々言われないのか?」
「生憎、オレの監視役はあまり上層部と仲がいいとは言い難くてな、それに、首切ろうにも首切っただけの報復が待っていることを理解できないほど、上層部もバカじゃないさ」
なるほどな、とオレはうなずく。まあ、コイツらしいやり口だ。生まれつきの勘の良さと五感の良さ、記憶力をフル活用している。コイツは正直悪くはない。元々聞こえる、見える、わかるんだ。本人がそうしようと思ってなくてもな。
監視役も楽じゃねえだろうな、とオレは苦笑する。コイツの監視なんて、上層部は頭いいんだか悪いんだか。ま、監視役らしき奴が一人、ウィルの後ろでにこやかに笑いながらいるのだが。
そんな監視役を横目にオレは話を切り出す。前から相談していることがあるのだ。珍しく真面目に話すオレを、やっぱりウィルは緊張感がない笑顔で見ていた。


暗殺者だったかな、ウィルが言うには。だが、色々事情があり、そしてウィル自身もそのことに関して全く気にしてはいない。そらそうだろうな。
ウィルは自分のことに関しても他人のことに関しても無頓着だ。考えてはいるのだが、考えていないように行動する。だからバカ扱いされるのだが、本当はコイツの能力の高さは半端じゃない。無頓着じゃなければ、自分に素直な奴じゃなけりゃ、世界がこうも無事でいるはずがない。いいすぎだと思うか?うん、少し言い過ぎかもしれない。でも、過言って言うほど過言ではない気がするんだ。
他人のことなんてどうでもいいんだ。自分がそうしたいと思ったからそうしている。それだけさ。だから、他人の過去も、そうなった理由も、興味ない。受け入れるだけだ。過去なんて関係ないんだ、こいつにとっては。今がそうであるのなら、もう、過去がどうだろうと何でもいい。
それがよくて、それが悪い。過去に辛い目にあっていても、ウィルには、関係がないの一言で全てが片付く。
ああ、簡単な言葉があったな。情があまりない、という感じか。一見優しく見えたとしても、違う理由があることがほとんど。
それでも……こんなにも感情豊かに見えるのが、コイツの不思議なところだ。
遠い昔のことを思い出させる。
どんな状況下でも笑っているウィルの姿が、浮かんでくる。歳を取っていい加減オッサンもそろそろ終わりに近くなってきているウィルと、そのウィルは、歳の違い以外に何ら変わらない。
笑わない奴だったオレを笑わせた。前を向かせた。
アイツには何にも関係がないんだから、だからこそ、アイツは魅力的に映る。あそこまでさっぱりしているとな。本当、バカはバカなんだ。呆れてしまうぐらいバカだ。
どこまでもバカなんて奴、この世の中にどれぐらいいるんだろうな。


「……ウィル」
「ん?」
「……お前は……」


軍人でよかったのか?


ウィルは笑う。変わらない柔らかな印象を持つその顔で。
「……さあな」
コイツだけは、変わりようがないんだな。





アイツのことを知ってどうする?
アイツにケンカを売っているのか?
無駄だよ
アイツはケンカの仕方をよく知っている
どんな風に手を緩めて油断させ、どんな風に地獄に突き落とせるか
何度考えてもアイツの方が上手だろうさ
それに……アイツに弱味なんてないよ
アイツにとって守るべきものなんざないのさ
ただ、自分の感情に素直に、自由に生きてるだけさ
アイツの過去を洗うだって?
おいおい、無茶言うなよ



それはオレしか知らないんだからよ


そう、だあれも知らないさ、アイツのことなんて


アイツがどう育ったかも、どう生きたかも、そんなのアイツ自身も知らないんだから