フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

NORMAL ABNORMAL 1章 4

 怒りで笑みが消えたヒカリと、銃を構えるオレ。そんなオレらを見て、奴らはまた笑う。

「オッサンと姫さんは手が早いねえ。オレらが三人でやっていたら、子供なんて大変なことになるのに」

 まあいっか、と呟いてバンダナは大剣を抜いた。

「別に、あのガキを使ってここに呼びたかっただけだし、これ以上ガキに何しても意味ないだろ」

「それもそうだな。んじゃ、お前はオッサンをよろしく。オレは姫さんの方やるわ」

 好きにしろ、というバンダナ。眼鏡の奴は眼鏡を取り、投げ捨てた。口から牙が生え、目がランランと凶暴な光を宿りだした。その手はまるで猫の様で、爪は鋭い。

 あれは……

「アブノーマル獣族ネコ科か……」

 猫というより、トラか。

 ネコ科は大半は大人しく、気まぐれではあると言われているが、個人の性格が凶暴なのだろう。凶暴そうだが……まあ、問題はない。

 眼鏡はヒカリに突っ込む。それと同時に後ろではバンダナが大剣に炎をまとわせていた。オレの相手は魔法剣が使える奴か……。厄介だが、問題はない。

「んじゃあ、オッサン、よろしく」

「よろしく、じゃねえだろ、ガキ」

 バンダナが駆け出す。オレは右に避ける。炎がかすり、服を軽く焦がす。思ったよりスピードがある奴だ。

 だが……所詮、17,8そこらのガキだ。

「甘えよ、お前」

 がら空きの背後にまわり、回し蹴りをくらわす。バンダナはあのスピードでよけようとするが、オレを甘く見てもらっちゃ困る。ダメージは軽減させられたが……バンダナの腰にオレの蹴りが決まる。

 バンダナはバランスを崩し、剣を手に一瞬よろめいたが、元々のバランス感覚がいいらしい。体制をすぐに整えた。

 

 その一瞬で充分だ。

 

「っ!?」

「てめえら、狙うんなら……」

 バンダナの後ろにまわりこみ、片手で引き倒す。銃をバンダナの額に向けた。

「相手を見てケンカ売れ」

 魔法剣が厄介なのは、斬撃を食らわなくてもダメージを受けやすいことだ。このスピードだし、あれを扱うだけ強いんだろうが、何せオレも伊達に死線を潜り抜けていない。本気を出したヒカリより下じゃ、オレには勝てない。

「剣から手を離せ。急所は狙わねえが……動けなくさせるぞ」

 オレはバンダナに銃を向けたまま言う。それに一切の嘘はない。

 バンダナは大人しく剣を手放す。素直でよろしい。オレはバンダナの鳩尾に拳を叩き込んだ。

 うずくまるバンダナ。やれやれ……だからガキは……。

「っ!!」

 何かが何かに噛みつくような音。異様なその音と誰かの声にオレは驚く。すぐそばで戦っているはずのヒカリを見た。

 眼鏡の牙がヒカリの左腕に突き刺さっている。勢いよく吹き出す血。ヒカリは顔を歪め、剣を取り落す。ミシミシという音。……骨が危ない……!!

 ヒカリは歯を食いしばり、蹴りを眼鏡にくらわす。眼鏡は猫らしく素早く軽やかにヒカリから離れ、ニヤリと笑う。その口からはヒカリの血で真っ赤に染まっていた。

 

 おかしい。

 確かにバンダナから言って、コイツらはそこそこだが……ヒカリの敵じゃないはずだ。

 ヒカリの左腕は赤に染まり、地面に液体が落ちていく。

 オレは気づく。ヒカリの脇腹からも血が染みだしていることに。致命傷ではなかったが、決して浅くもなかった脇腹の……。

「昨日の傷か……!!」

「ピンポーン。おかげで姫さん結構弱っていてよかったよ」

 ケケッと笑う眼鏡。確かに、ヒカリは大分戦闘慣れはしているが、あの傷が開いたんじゃ行動に影響が出る。

「昨日からずーっと見ていたんだよね♪ 嬉しいその事実は万歳、だよね♪」

 うざい奴の言葉など耳に入らない。出血が激しい今、ヒカリはまともに戦えるわけじゃない。オレは眼鏡に向かって銃を構えようとする。

「っ!!」

 突然近くに感じた殺気に飛び退く。足に感じる痛み。バンダナがナイフを手に斬りかかってきた。くっ……案外立ち直り早いな。鳩尾殴ったら普通、すぐには立てないっつうの……!!

 幸い、傷は浅そうだ。動けるし、剣は取り上げた。一発やればいい話だ。

「懲りないな!!」

「……」

 ニヤッと笑うバンダナ。コイツは大人しくオレに殴られた。

 わかっている。眼鏡がヒカリに攻撃するためにはオレが邪魔だ。少しでもオレをこっちに集中させれば……それでいいんだ。

「ヒカリッ!!」

 銃を構えても遅かった。眼鏡がヒカリにとびかかる。ヒカリは右手を剣に伸ばすが震えている。

 この位置からだと……ヒカリにあたる。間に合わない……!!

 

「……はっ?」

 眼鏡のマヌケな声。驚いたように目を見開いた。

 それは当然だ。長い真っ白い毛の大きな犬がヒカリをかばうかのようにとびこんだのだから。あたり一面、赤ではなく、青にそまる。

 

「もう、お兄さんを無視しないでよね」

 ヒカリから十分に距離を置き、青い液体に戸惑う眼鏡。その後ろで、青い液体が人の形に変化していく。両手だけ、青い粘液のまま、そいつは無邪気に笑う。異常に気付いた眼鏡が振り向くときには遅かった。青い粘液が眼鏡の首や腕に巻き付いていく。

「!?」

「お兄さん、寂しいなあ。

 

 ねえ、お兄さんと遊ぼ?」

 そいつは無邪気に笑ったまま、眼鏡の首をゆっくりと絞めた。

 

「くっ……!!」

 ギリギリ絞められていくのがここからでもわかる。眼鏡の顔が歪み始める。

 ゴゼンには殺意が見られない。だが、明らかに眼鏡を殺ろうとしている。遊んでいるうちに玩具を壊す子供のような笑顔。

 

ブチっ

「あらら~……逃げられちゃったあ」

 眼鏡はゴゼンから離れ、ゲホゲホと咳をする。ゴゼンの腕を引きちぎるだけすごいだろう。

 ゴゼンはちぎられた青い粘液を再び集める。今度は両手をつるのようにする。棘のついた凶器の形へ。

「そういうことする子には、お仕置きしちゃうよ?」

 眼鏡が眉を寄せる。オレでさえも、その無邪気さと言っていることの残酷さにゾクッとした。

 コイツは……

 

 ヒカリが崩れるように倒れる。限界だ。

 ヒカリ、と声をかけるが、ヒカリは左腕をだらんとさせ、脇腹を右手でおさえている。絶え間なく脂汗が流れている。傷口を見たが、ひどいもんだ。医者に見せるしかない。

 とりあえず止血だ。このままじゃ出血多量で命がやばくなる。バックから止血に必要なものを取り出し、ヒカリの左の二の腕をロープで絞めつける。そして、傷口を抑え込む。布は汚れるが、仕方あるまい。

「アハハ、本当に悪い子だよねえ」

 近くで恐ろしいことをいう奴が若干一名いるが、無視。医者に見せる前にできるかぎりのことをする。

「意識はあるか?」

「一応……。でも、ちょっとクラクラするよ……」

「当たり前だ。結構出血したんだからな」

「……」

 ヒカリは黙り込む。確かに顔色が悪い。あまり長時間放っておけない。ゴゼンを止めて、さっさとラグの居場所吐かせるか……。

「ゴゼ……」

 オレはゴゼンに声をかけようとした。だが実際出たのはオレの声じゃない。

 一発の銃声。

 

「リッ君、どうして止めたの? もう少しで捕まえられたのにぃ」

 不満そうなゴゼン。オレは何も言えずに銃をしまった。

 手足にからみついたつるを払えずにもがく眼鏡の腹を狙って、凶器のつるを勢いよく刺そうとしていた。

 ゴゼンは眼鏡を殺そうとしていた。本気で、オモチャを壊すのと同じ感覚で。

 コイツは……本気で「バケモノ」なんだ。

 弾があのつるを貫いて吹き飛ばしたからよかったが、あのままだったら……。考えただけでぞっとした。 

 つるを人の手の形へと変えていくゴゼンを見る。

「……殺すな」

 この「バケモノ」にはもうこれしか言えなかった。

 

 地面にへたり込んだ猫一匹。九死に一生を得たコイツには、正直同情する。さすがにコイツの攻撃はオレもビビった。近づいたオレをキット睨む眼鏡を見る。

「……ラグの居場所、吐けよ」