フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

リザインサバイバル2

 けたたましいアラーム音にイラつきながら彼はのそのそと起き上がる。眠りたりないと思いつつも起きなければ後が辛い。彼は不機嫌そうに眉を寄せた。

 結局暑さに耐えきれず、これから来るであろう寒い夜も嫌でこの乗り物の中で一夜を過ごした。エンジンなどが不調だが他の設備は生きていたようで、寝るにはちょうどいい温度を保ってくれていた。これでエンジンさえ無事ならいいんだけどなあ、と彼は呟いた。

 アラーム音を鳴らすスマートフォンを手に取り、音を消す。そして一度大きな伸びと欠伸をして、外に出た。今日も暑くなりそうだな。彼は呟いた。

 

 

 

「……それで雪村に頼まれてきたのですか、あなたは?」

「ええ。生徒会ちょ……雪村栄音から、あなた方が困っているから手を貸してやってくれ、と頼まれまして」

 本当はほぼ脅されてきたんだけどな、と心の中で呟く。本当のことなど口が裂けても言えない。言ったらどんな報復が待っているのか目に見える。さすがに指は痛い。

 なるほど、と言いながらも明らかに不信感を抱いている目の前の老人。小さな村の長老を名乗っているその人物は、注意深く凜を見ていた。まあ、見た目はここらへんに住んでいる人々と違うし、変な金属の塊の乗り物を持ってきたし、凜が覚えた言葉も片言だ。不審者臭が半端じゃない。

 言葉もかろうじて通じている状態で、長老の言葉もかなり方言が入っている。お互いに聞きとるのが大変な状態だった。

 これは話が通じるのが大変だぞ……。凜は一つため息を吐く。

 長老はしばらく何かを考えている。そして口を開いた。

「確かに雪村には最近困ったことがある、とは言った事がある」

「……何やら化け物が出るとか聞いたのですが」

「……あれは人間だったと思うのだが……」

「……。……被害の方とかはあるのですか?」

「あるある。食物庫丸々ごっそり盗まれることが多くてな……村人も何人か殺されている」

「何人か殺されているって……被害深刻じゃないですか」

「深刻だ。だが、その人間が見つからなくてな……」

「何か、特徴は?」

「暗闇だからわかりづらかったが、2mはある巨体、とは聞いている。村の連中のようには思えないから、他の場所からの人間だと思っているのだが……」

「……ここで他の場所で生きている人間、ですか」

 凜は眉を寄せる。手を顎に当て、考え始める。

 この広い砂漠地帯で、他の場所に住んでいる人がいるとは考えづらかった。村の人々は小柄で、男性でもせいぜい170あるかどうか。

 ここは確かに一番過ごしやすい場所で、しかも見渡す限りの乾いた大地だ。村以外の井戸も何もない場所で、2m以上の巨体の人間が生きていけるのかどうか、そもそも食べ物も少ないここをわざわざ狙うメリットもない。隠れる場所までいく力があるなら、別の場所に行った方がいい。夜に来たとしても、見張りが気づきそうなもんだが……。

 何かめんどくさそうなことになりそうだなあ、と凜は思いつつもわかりました、という。

「少し、調査させてもらってもよろしいでしょうか?」

「……」

 長老は構わない、と言いつつも目が信用していない。ああ、居心地悪いな、と凜は母国語で呟いた。さっさと終わらせて、帰りたい。凜は立ち上がった。

 

 

 

 

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リザインサバイバル3 - やまリンゴの呟き場

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リザインサバイバル 1 - やまリンゴの呟き場

リザインサバイバル 1

「あー、くっそ、完全に壊れた!」
 栗色の髪をした少年がガンッとそれを蹴る。それは軽自動車程の大きさだが、車とはまた違う楕円形の金属の塊だった。それは一瞬だけぶるっと震えるも、すぐに音が止まる。少年はくそ、と舌打ちしその場に座り込む。流れ出る汗を拭き持っていたタオルで拭き、ため息交じりに辺りを見回した。
「本当にここであってんのかよ、生徒会長……。大体何でオレが……」
 ぶつぶつと文句を垂れる少年。彼の視界に移るのは、ただだだっ広い砂の大地だけだった。


 彼の名前は星凜(ほし りん)。17歳の現役高校生である。
 現役の高校生である彼がこの砂の大地にあるような学校に通っているわけでもない。彼の高校はこの砂の大地から車で10時間以上、飛行機に乗って軽く10時間、そしてまた車で数時間かかる場所にある。そこの高校で彼はいくつかの類稀な才能を持って生活していた。
 そんな彼が、自分が住んでいる土地から遠く離れた縁のなかったこの大地に来たのにはいくつか理由がある。
 比較的体のいい理由を挙げるとすれば、語学に興味がある彼は、学び、覚えた色々な部族の言葉を実際に使ってみたかったからだ。勿論、そんな理由だけでここまで来るわけがない。使ってみたいにしてもわざわざここまで来るほど言葉を使ってみたい、という強い思いは彼にはない。
 もう一つは、生徒会長に頼まれたことがあったからだった。
 あー、これ重いんだけどなあ、と彼はまたぶつぶつと呟く。夕方とは言え、日差しが強いこの時期にこの大きな金属の塊を引き摺っていくのは体力をどんどん削られていく。汗を拭き、持っていた水筒の水を何度も口に含む。
 持っていた地図とコンパスを頼り、彼はある場所に向かっていた。
 ボサボサのクセっ毛をポニーテールにした背が高い少年凜は舌打ちと共に言葉を吐く。
「何でオレがこんな場所の化け物退治しなきゃいけないんだよ……」

 

 

 

 

 

 

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リザインサバイバル2 - やまリンゴの呟き場

3月12日ルフトsHPBリクエスト リーベとクルエルさんの話

 ああ、鬱陶しいの。
 ドシャっという音と共に落ちる体。腐ってもう生きてないゾンビの体を蹴りあげ、そのまま手に持っていた鉈で肩から腕を叩き斬る。
 ああ、うざいよ。
 何も抵抗しないゾンビ。自分は笑っていながらもその態度が気に入らなくてイラついた。
 もうほっといて。
 ゾンビの体を何度も何度も何度も斬りつける。何か声が聞こえるのが心地いい。痛いんだろうな。苦しんだろうな。そう思うと口元が緩んでくる。
「死んでくださいよ」
 そんな言葉は何の抵抗もなく言葉として出てきた。
 そんな時でもそいつは何も言わなかった。憎むような目も嫌悪する目も、ましてや恐れるような目もしなかった。ただあったのは、自分を憐れんでいる目だった。
「……」

 死ねばいいのに。
 本当にぽろっと言葉になった。

 

 


 エルク父様はいつもと変わらず過ごしている。朝一番の攻撃もあっさりメスを調理中の包丁で守っちゃうし。ちょっと待ってくださいよ、その無駄な戦闘能力を何故いざとなった時に発揮しないんでしょうか?バカなんですか、死ねばいいのに。
 あー、今日も朝からイライラする。ニコニコ笑顔を貼りつけているのは別に特に意味なんか無い。ニコニコヘラヘラ笑うのは癖みたいなもの。やけに伸ばした言い方も、嫌味っぽい丁寧語も癖だ。なかなか治せるもんじゃないし、治したところで特にいいこともない。ぶっちゃけフェリスさんとか気持ち悪がってくれるし。
 今日は何をしようかなー?そう思ってここの部屋に入る。

 一つの本を選び、その場に座り込んで読み始める。今日はいい天気のせいか窓から日差しがたくさん入ってくる。自分はただ無表情になって読み進めた。いつもいつも変なことばかりしているように父様やフェリスさんに思われているかもしれないけれど、実際はそこまで変なことはしていないと思う。精々嫌がらせの罠考えたりしているくらいだ。引っかかるの全部クルエルだけど。

 ひどく穏やかな日だ。隣で修羅場があってもここ、防音だし、外の音は聞こえてこない。紙をめくる音だけが耳に入ってくる。自分はただただ目の前の本に集中した。

 

 

「アアア?」

 ふいに聞こえた声。本が読みづらくなってきたな、と思い始め、外を見た時だった。もう夕暮れで日が傾きかけている部屋は既に薄暗くなっていて、そいつの方を見た時は影の中から現れたように見えた。

 自分は小さく舌打ちをしてできるだけ無邪気に笑う。というか腹立たしい。親子であることさえ嫌悪したくなる男と間違えるな。あの男が女々しいだけだ。

「なんですか、クルエルー?」

「……アアア?」

「そんなの余計なお世話ですねー、別にクルエルにそんなどっかの子供産んだオバサンみたいなこと、言われる筋合いはないですしー」

 ああ、むかつく。コイツ、嫌いなんだよね。

 本を手にし、そいつの隣を通り過ぎる。コイツに関わると色々面倒なんだ。

「アアア」

 ふいに手を掴まれる。髪の毛であんまり見えない猫のような目がこちらを見ている。夕陽を背にしているせいかぼんやりとした影の塊のよう。自分はその影の塊の手を振り払う。

 気持ち悪いから触るな。

 いつの間にか無表情になった顔で、そう言い捨てる。そして、そいつの顔をそれ以上見ないまま隣の部屋への扉を開けた。

 あー、むかつく。ストレス発散のはけ口になるかもしれないけれど、お説教も同情も欲しくはないんだ、って何度言えばわかるんだろう。

 死ねばいいのに。

 

 

 父様とフェリスさんが話し込んでいる。いつもの研究所。本当にあのもやしたちには呆れる。一人なんか、外でたらほとんど死にそうな顔するし。そのまま逝ってほしいのが本音だけれど、周りにいるみんなが治しにかかるしなかなか逝ってくれない。本当に舌打ちものだ。いっそのこと、無味無臭の毒でもしかけてやろうか?

 できるだけ確実に逝く物にしたいなー、でも父様すぐわかるからなー、めんどくさいなー、などと思う。口にはしないけれど、今すぐにでも死んでほしい存在だ。もう何千回殺す妄想をしただろう?数え切れないや。

 フェリスさんが自分に気付く。チッ、鉈に手をかけていたのバレたか。自分は鉈から手を離した。

「……今何をしようとしましたか?」

「べっつにー? いつも通りぶち殺そうと考えただけですから気にせずー」

「気にしないわけないでしょ、いい加減にしなさい」

 すごくいい笑顔で舌打ちしてみせると、フェリスさんは眉をひそめた。父様がチラッとこちらを見て、フェリスさんに話しかける。フェリスさんは一度軽蔑の眼差しでこちらを見る。このフェリスさんは知らないだろうけれど、自分の記憶の中にはこの眼差しがいくつも存在する。慣れっこだ。

 自分にそれ以上の興味を抱かない父様。ただただ父様自身が聞きたいこと聞いて、フェリスさんの頼みを聞く。必要以上にフェリスさんのことを気遣い、フェリスさんに何かあれば慌ててどうにかしようとする。その仕草がもう嫌で嫌でたまらない。鬱陶しい。なんて鬱陶しいんだ。

 自分は少しだけ爪を噛む。あー、イライラする。イライラするなあ。ぶっ壊したいなあ……死ねばいいのに。

 ぶち壊せばいいんだ、こんな物。

 イラつく原因全部排除すればいいんだ。

 イラつくんだ。嫌なんだ。消えてほしい。

 死ねばいいんだ。

 死ねばいいんだ。

 死ねよ。

 

 

 ゾンビの剣が、自分の鉈を止めている。一瞬何が起きたか自分でもわからなかった。アイツの猫のような目が、こっちをじっと見つめている。鉈を受け、未だに力を加え続けているにも関わらず、微動だにしない。

 ああ、自分、この二人を殺そうとしたのか。やっと理解する。

 二人の目が、こっちを見ている。冷めている目と、驚いている目。さっさと立ち去りなさい、と言われる。盛大に舌打ちして、鉈をしまう。そいつはまだ双剣を構えたままだった。

 何とか崩れなかった笑顔で何か捨て台詞みたいなのを吐いた気がする。でも、何を言ったか全然覚えていない。むかついて、むかついてたまらないだけだった。

 後でアイツの腕切り落としてやる。そうやって爪をまた噛んだ。

 

 

「アアアア、アアアアアアア」

 一人でそこらへんにいた兎を掻っ捌いていた。後で食べるにしても美味しいし、とにかく何かを壊して、掻きだして、ぐちゃぐちゃにしてしまいたくて。ただただイライラしていた。もう嫌になるくらいイライラしていた。

 そんな時にアイツが来た。何のつもりか知らないけれど、ジュースまで持ってきている。自分が好きなジュースだ。笑顔でありがとうございます、気持ち悪いですね、と言っておいた。だって本当のことだもの。

 アイツはもうちょっと困ったような顔をしたものの自分にそのジュースをよこす。血に濡れた手を、そいつの服で拭くと、そいつはまた、困ったような顔をした。だからとりあえず悪意満点の笑顔でジュースを受け取る。

 中身を出され、目を抉られ、肉塊と化した兎。それと椅子に座ってジュースを飲む自分をそいつはゆっくり交互に見た。

「一体何の用ですかー?」

「……」

「なんですか、何か文句でもあるんですか?」

「……」

「何か言ったらどうですかー?無言とか気持ち悪いですー」

 ただそこにいるだけ。煽っても全然微動だにしない。その顔に、その態度に、またイラッとした。

 ふいに頭に何かの感触がする。何か、顔くらいの大きさの何かで、いくつか細い何かもついている。それがそいつの手だと理解するのに、ほんの少しだけかかった。自分の頭をそっと撫でている。小さい子供をあやすような、そんな手つきだった。

 自分は未だに状況が理解できず、クルエルを見る。いつもの顔があった。ただただ穏やかで……ただただ自分を憐れんでいる目だった。

「アアア……アアアア」

「……なんですか、同情でもしているのですか?むかつきますね」

「アア……アアアア……アアアアアアア」

「……何なんですか、手をどかしてください」

「アア」

「汚い手で触るな」

「……アアア」

「触るな」

「アアア」

 

 

 鉈を振り下ろした。

 

 

 

 ポタポタ流れるクルエルの血。死にはしないとはいえ、随分と流れ出るものだ。物凄くゾクゾクする。昔から好きだったあの感覚とは全然違う何かが、あった。

 床に血だらけで倒れ伏すクルエルを踏みつける。あの時は一瞬で自分の攻撃を受けたくせに、今、何でか抵抗も何もしない。それが神経を逆なでる。

 死ねばいいのに、死ねばいいのに、死ねばいいのに。

「同情しないでくださいよ」

「……」

「余計なお世話なんですよ」

「……」

「なんなんですか? 何がしたいんですか?」

「……」

「答えてくださいよ!!」

 片手でクルエルの服の襟をつかむ。血だらけの顔が腹が立つ。もうなんなの。もうなんなの?

「自分は!!同情されなくたって全然平気なんです!同情するならリーに協力して、フェリスさん達ぶち殺してくださいよ、それくらいいらないものをリーに寄越すな!!」

 わけがわからない。

「死ねばいいのに!」

 本当に何でこんなにキレているんだろう?

「死ねばいいのに!」

 もう頭がいっぱいいっぱいになっているのはなんで?

「死ねばいいのに!!」

 

 

 同情なんかされたくない。愛されたくもない。大嫌いだ。みんなみんな大嫌いだ。みんないなくなればいいんだ。自分だけが普通と全然違う環境だってもうずいぶん小さい頃から気づいていた。だからこそ嫌だったんだ、何もかも気に入らない。

 だからケガしても黙っていた。ただただニコニコ笑っていた。そしたら誰もケガには気づかなかった。

 具合悪くたって隠してた。誰も気づかなかった。

 誰も自分を見ないんだ。

 望まれて生まれてこなかった自分なんか、どうだってよかったんだ。気づくに値しない存在だっただけだ。

 なのに、ずっと求めるんだ。大嫌いだ。大嫌いだ。大嫌いだ。だから嫌なんだ。

「大っ嫌い……!!」

 クルエルの首を絞める。いつの間にかボロボロ泣いている。もう訳がわからない。何がしたいのかもわからない。大嫌いなんだ、大嫌いなんだってば。

 

 クルエルの手が自分の頭を撫でる。また、子供をあやすようなそんな手つきで。目を細めてこちらをじっと見ている。

「……アアア……アアアアアア……。アアアアアアア……。アアア」

 

『君は』

 

『羨ましいんだね』

 

『誰かに心配され、愛されるのが』

 

 

『まだ幼い子供だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェリスさーん、クルエル貸してくださいよー、ぼこぼこにするからー」

「構いませんよ、さっさと連れて行ってください」

「本当にフェリスさん愛想なーい、死ねばいいのに」

「いつか殺してくださいね。殺せるものなら」

「言われなくても」

 そう言ってクルエルの首根っこを掴む。ずるずる引き摺られていくクルエル。すごく迷惑そう。というかすごく嫌がっている。そら、痛覚すごく強いのに、鉈でボコボコニする気満々の自分に連れて行かれているんだから、嫌だろうね。

 自分はにんまり笑って嘘を吐く。

「そんな程度で分かったふりしないでくださいよ。

そんな偽善、いらないんですから」

 

 

 

 

fin

 

間に合った!!

聞いてほしいこと

 小説ではありません。この厨二全開のブログ主の私、やまリンゴのペットの話です。

 大分気持ちが落ち込んでいて、鬱な部分がありますか、ご容赦ください。鬱なのいつものことですけど。

 

 私の家では一匹の猫を飼っています。私のサムネイルにもなっています、私がまだ保育園だった頃に間違って引き取ってきた黒白のぶちネコです。

 間違って、というのは、元々は母の知人が猫を譲っていただけると言うので、ペットショップ(だと思われる。路上に動物いっぱいいた記憶あり)を通して引き取ってきたのです。ところが、母は引き取ってすぐに知人に電話し、キジ猫のはずがブチの子を貰ってきてしまったことに気付きました。すぐにブチの子をショップに置いてキジ猫を引き取ろうとしましたが、既にキジ猫は別の家庭に。猫だったらいいか、と思った母は、そのままぶちの猫を飼うことにしたのです。

 名前は「リン」。私に名付けたかったけれど周りが大反対した名前だそうです。でも、女の子の猫なのに、「りんたろう」「りんのすけ」など、男子名で呼ばれていました。呼びやすかったので……。

 

 リンは非常に大人しい猫でした。ほとんど鳴かず、滅多に噛んだり引っ掻きもしなかったです。せいぜい、餌をやり忘れて旅行に行った時、餌やり担当の父の枕に糞と尿のコンボを一度ほどやっただけでしょう。

 私はと言いますと、末っ子で、しかも他の家族よりも立場は低かったので、猫になめられてはいました。私はしょっちゅうちょっかい出すのもあり、リンにひっかかれまくり。怒っても仕方がないほどしつこいちょっかいだったので自業自得でしょう。小学校高学年になってから手に入れた自分の部屋を、リンが侵入、独占、布団猫の毛だらけ、布団を剥ぐと猫、なんてザラでした。リンにとって私は、リンの部屋(とリンが思っている部屋)にたまにくる人間、みたいなもんだったのだと思われます。

 猫パンもよく食らっていました。耳までざっくりやられたときもありました。でも、本当に自業自得の何物でもない。ちなみに、リンは私からちょっかい出さないかぎり、絶対手(前足)は出さない猫でした。

 

 リンは生まれつき心臓が弱く、多分、7,8年くらいだろう、と言われました。実際、避妊手術したら弱っているし、近所の猫とケンカしたら結構ケガして帰ってきてぐったりしているし。

 だからこそ、我が家は本当にリンを可愛がっていました。

 別に甘やかしたわけでもないです。遊んであげたり、ベッドを作ってあげたりしてみただけです。なでなでして、毛繕いしてあげてました。お風呂にも最初は入れていましたが、ビビったリンが糞をしたのでいれなくなりました。

 

 私が中学になってからでしょうか。リンは帰ると玄関までお出迎えするようになりました。家に入ると、リンがいて、無言でご飯!とねだってくるのです。彼女なりのおかえりで、私はそれが可愛くてしかたありませんでした。

 その頃のリンは非常に太っていて、大体5kgほど。避妊手術以降から太って立派なデブネコちゃん。ムニムニすると気持ちよかった記憶があります。

 冬は寒く、布団も冷たい。だから私はよく、リンを抱いて布団の中に入りました。抱っこは苦手で抱くと30秒もせずに私に猫パンを食らわせてくるリン。しかし、布団の中に入ると、顔を私の腕に乗せてゴロゴロ。とても温かく、ぬくぬくで気持ちいい。

 成猫と比べ、年を取ってきたこの頃、猫なで声と可愛い顔の作り方をマスター。コロッと騙されてご飯をあげてしまう可愛さでした。しかし、普段は近寄るなオーラが素晴らしいブスッとした顔。だけれど、そこがいい。

 

 年を取った、と実感したのは、2013年、7月のこと。

 丸々と太っていて、もっふりしていたリンが、痩せはじめました。最初、両手で抱えないと重くて仕方なかった体は、8月の最初には片手でも大丈夫そうなくらい軽くなっていました。

 水も異常な程に飲み、あちこちの水を求め、トイレもすぐにいっぱいになるほどでした。原因がわからず、私たち家族は首を傾げました。それでも、リンは元気でした。むしろ体が軽くなってできなかった高いところへのジャンプが楽しいらしく(けれど降りれない)、降りれない、助けて!というヘルプの鳴き声聞くこともしばしば。

 なんで乗るんだよー……と呆れておりました。

 8月中旬。私たち家族は黒部ダムの方にでかけていました。景色も素晴らしく、顎の手術で入院して、退院したばかりの私も久々にはしゃぎ、久々の家族旅行を楽しんできました。

 帰ってきたら、リンが下痢とゲロで苦しんでました。

 廊下、台所、玄関、リビング、階段……いたるところにゲロと下痢。上機嫌で帰ってきた私たち家族、少し泣きそうでした。リンが一番の修羅場だったので、家族総出でリンに謝罪。リンはぐったりしていました。

 1日経っても水すら飲まず、ぐったりしているリン。これはまずいと思い、病院に連れて行きました。そこで点滴を受けました。

 お腹を壊した原因は、焼いたホッケ。滅多に焼き魚に反応しないリンが、黒部ダム行く前日に兄が買ってきた大きな焼いたホッケに反応。ほんの少しだけあげると見たことないぐらい美味しそうにはぐはぐ食べていて、こっちも嬉しくなってしまいついついあげてしまいました。

 これ以降、我が家ではホッケはもちろん、焼き魚を基本的に禁止にしました。

 ぐったりとし、ああ、これダメかもなあ、と半ばあきらめていた時、点滴の力ってすごいですね。リンがやっと自分で食べるようになりました。死んでいた目も、生き生きとして、にゃんにゃん鳴くようになってきました。

 それでも、リンは少しずつでも変わって行きました。

 まず、猫用のトイレでおしっこすらできなくなりました。

 糞もです。

 理由はわかりませんが、数か所でおしっこをするようになったのです。床はびしょびしょ、気づかないで踏むことも多く、困りました。対策として、犬用のペットシートを置き、ここにならおしっこしていい、とするようになったのです。大抵はこれでどうにかなるようになりました。

 高いところにジャンプもできなくなりました。

 ただし、ドア代わりにしてた兄の部屋の前に置いた段ボール(高さ6,70cmぐらい)を、よじ登ってはいました、つい先週まで。

 ご飯をよく食べるようにもなりました。

 夜泣きもひどくなりました。

 鳴き方も変わりました。

 お風呂場に喜んで来るようになりました。

 それでも、リンは年を越しました。祖母の家に私と一緒に泊り、のびのびしていました。

 母の後をついて回って歩いてました。

 

 

 今年の1月18日が終わり、真夜中。リンがよく鳴いていました。いつものことなのでほっておきました。餌もたくさんあげたので、これ以上はダメだ、と抱っこもしました。下ろすと、少し不満そうにしてましたが、自分のベッドに戻りました。

 次の日は日曜日でした。

 リンは一口もご飯を口にしませんでした。水は飲むけれど、元気はありませんでした。どこか虚ろでした。

 大丈夫かな?と心配になりました。寒いところに座り込んでいるのでだきあげてました。違和感がはっきりしたのは、下ろしてからでした。

 リンは、ほとんど歩けなくなっていました。倒れてしまいました。

 水も座って飲めなくなっていました。座るのもしんどいのです。

 顔が無表情でした。

 何をしてあげても、興味もなく、反応しませんでした。

 呼びかけてあげるとほんの少しだけ耳を動かし、しっぽを少しだけ振るだけ。目は少しも動かなくなっていました。

 昨日まではちゃんと表情はありました。座れてました。よぼよぼだけど歩けてました。でも、今、全部無いんです。

 ああ、これはダメだ。もうこの子は死ぬんだ、と確信しました。

 8月から覚悟はしてました。でも、いざ、本当に弱るの見ていると辛いですね。

 

 夜中、地獄の底から叫ぶような鳴き声に驚いて飛び起きました。リンの声じゃないように聞こえました。

 朝起きても、リンはベッドに寝ていて、呼びかけてやっとしっぽで返事をしました。

 私が家に帰ってきても、それは同じでした。

 水場に連れてきて、水を飲ませました。水を飲むリンを見て、少し安心しました。

 餌には口は付けていませんでした。喜んだ方の餌なのに。

 

 

 多分、もうすぐリンは死にます。

 多分、死んだらまず、ホッとするんだろうな、と思います。

 夜鳴きにびっくりして起こされることも、そこらへんにおしっこがないか確認して歩くことも、誰か家にいなきゃ、と気を遣うこともないですから。

 でも、寂しくなるだろうなあ……。家に帰るとリンがいて、おかえり、としてくれたのが当たり前でした。留守番してもリンがいれば満足でした。そのリンがいなくなるなんて、私にとってはほぼ初めてのことです。

 記憶がある頃からいるリン。

 せめて、最後まで安らかに逝けるよう、私は祈ります。

 寂しくないよう、誰かと一緒に穏やかに逝けますよう……。

 

 

 

 

 いなくなるのが正直怖い。ホッとするのが目に見えているけれど、それ以上に怖い。いなくなってほしくない。

 いてください、どうか一緒にいてください。寂しいです、悲しいです。

 意地悪とかしてごめんなさい。しつこくてごめんなさい。機嫌悪くて荒れて恐がらせてごめんなさい。

 生きててほしいです。いなくならないで。いなくならないで。そばにいてください。鳴いてください。引っ掻いてください。餌を欲しがってください。ぐるぐる鳴いてください。偉そうにしてください。

 寂しいのです。

 

 

 寂しいです。

三題噺 「もぐら」「海」「掟」

 考えてみれば、それが当たり前だったのだろう。それが異常だと気付いたのは随分と昔だったのだが、それをどうにかする術は何も持っていなかった。

 それで我慢し続けて生きた結果だ。今でも管理されるのが怖い。何もかもが怖い。怖いんだ。

 でももっと怖いのは……。

 

――――――――――

 

 エルク。

 オレの名前が呼ばれる。誰の目にもつきそうもない場所を選んだつもりなのだけれど、目の前の男は鼻がいいのかすぐにオレを見つける。犬か、と何度思ったことやら……。

 海の上を走る船。他の船客も乗っていて、海の旅を満喫している。酔って海に吐いているオッサンもいる。見苦しい。子供がきゃっきゃ遊んでいるし、自分の歳ぐらいの子も仲良しの子なのか、兄弟なのか、もう一人とはしゃいでいる。がやがやしていて自分はこういうの苦手だ。

 人がいるとうるさいから避けてきたのに、わざわざ寄って来るなよ。

「……セーラは?」

「船酔い中。近寄るな、って怒られて追い出された」

「……セーラ、随分気が立っているね……」

 そこが可愛いだろ、と目を輝かせて言うコイツはバカだと思う。思わざる得ない。

 セーラは物静かな美人で、初めて会ったとき、あんなに失礼なことをした自分の身を案じてくれ、慰めてくれた。必要以上に近寄ってこないし、このウザ男と違って。

 ウザ……ロックはオレの目に気付いたのか蔑まないで、喜ぶぞ、とか脅してくる。アホらしいので無視をすると、今度は無視しないで、という。うっわ、めんどくせえ、とっととどっか行けよ。言葉にはしない、オレの地味な願い。

 えっとな、と急に真面目な顔になるロック。一体何なんだ、とオレは首を傾げる。

「お前、何か隠してる?」

「……はぁ?」

「だってさあ……」

「お前に関係ないだろ」

「うん」

「即答だな……ゲスな顔だな」

「そういうのは置いてだな……お前、何を思い出した?」

 今朝、うなされてたぞ。

 その言葉は、酷くあっさりとしていた。けれど、オレの体が一瞬固まるのをアイツは見逃していなかった。

「……いや、別に他意はないけどさ……。吐き出したいなら、吐きだしたほうが楽になれる時もあるってこと。ま、ないならいいけどさ」

 へラッとまたふにゃりとした感じで笑うロック。別に怒っていたわけでもない、でも、確実にオレのことに気付いていた。何かを見通すような、そんな感じがした。

 そう思うとオレは変に腹が立って、ほっとけ、と言って立ち上がり、自分の部屋の方に移動する。ロックが後ろで「キ」と付け足したのは聞かなかったことにした。

 

――――――――――

 

 思い出したことはある。でも、言いたくない。

 あの頃を思い出すと、今でも異常過ぎて頭が痛くなる。掟と言う管理の元で生活していた自分にとって、あれは思い出したくないものの一種だった。

 

 オレを他のきょうだい達が嫌うのはごく自然のことだ。オレ以外は役にも立たない、父の掟に従えるような子供はオレだけだ、構ってほしけりゃ少しでも優秀になれ。それに近いこと言われ続けていた。実の母親に、小さい時から。

 だからと言って、オレも幸せではなかった。甘えなんか許されない。母が求めることに応じるのが当たり前。出来て当たり前、出来なかったらできそこないと罵られ、暴力。常に人の目があって、常に持ち物チェックされ、何を書いたかまで確認され、息もできないくらい苦しくて、自分が自分なのか毎日毎日確認しなきゃ生きていける自信がなかった。

 それでも、他のきょうだいには、母の愛情を独り占めする憎いやつだったんだ。自慢されるときは嬉しい。でも、他のきょうだいが貶されるのが悲しかった。そして、オレをまたきょうだいたちは睨みつけるんだ。

 

 母がこうなったのも理解はできる。愛していた人と、その人の両親から奴隷扱いされ、いじめられぬいて、そいつが事故死するまで本当に精神的にあやふやだったらしい。

 それで子供のこと何度も罵られたんだ。何故、この家の掟に従えないんだ、従えるよう子供を育てろ、とか。

 それを10年以上に渡ってされてきたなら、本当に気が狂いそうだったのだろう。逃げれないよう、洗脳までされていたから。

 だから、完璧を目指しすぎる母になってしまったんだ。事故死したアイツにどんなにゲスでも、愛していたから、従おうとしたんだ。だから、「不良品」はいらなかったんだ。新しく生まれたオレを、傑作にしようとしたんだ。

 

 異常だと気付いていた。けれど、逃げれる物じゃない。逃げたところでオレはどこに逃げればいいと言うのだ。

 母には完璧を求められた。きょうだい達には陰湿ないじめを受けていた。

 それは仕方がないことだった。全員何かの被害者なんだ。不運が重なっただけなんだ。それでも……耐えるためには心を押し殺さないと生きていけなかった。

 

 そんな自分には兄が2人いたが、次男だけはとても優しかった。他のきょうだい達にいじめられていれば庇うし、具合が悪ければ看病もしてくれて、勉強のわからない部分も教えてくれた。

 次男だけは他のきょうだいと同じように、オレを特別扱いもせず、ごく自然と接した。お兄さん。今でもそう呼びたいぐらい、唯一愛せた人だった。

 思い出したのは、そこから先だったけれど。

 

『僕が作っておいてあげるから、エル君は自室で少し休んだら? 勉強を昨日夜遅くまで頑張っていたから、今眠いでしょう?』

 次男はオレにそう話しかけてきた。確かに眠いけれど、自分がご飯の当番だし、やってもらっちゃ次男に申し訳なかった。

 今思えば、あれが最初だった。

「いい。オレが当番だし。ルド兄さんは昨日作ったばかり……」

『お母さんが帰ってきたら休めないでしょ? 少しぐらい、休まないと体がもたないよ?』

「……でも」

『嫌なら、僕と交代する、って形にする?』

 忘れちゃって僕が作っちゃうと思うけど。悪戯っぽく笑う次男。オレはそこでじゃあ、という。好意に甘えさせてもらおうと思った。後で美味しいお菓子でも次男に渡さなきゃな、とか思っていた。

 次男はいつでもニコニコ。よくできた家庭的な男子だった。無口で仏頂面の長男と比べても、まったく似てない。次男のこの好意が純粋に嬉しかった。悪意満点の家の中で、僕はそれが安らぎだった。

 そして、自室で30分ぐらい寝ていたんだ。そして、次男の声に起こされた。次男の料理はどれもおいしそうで、みんな目を輝かせていた。ただ、オレの顔を見て、みんな顔をしかめたけれど。

 母親はまだ帰ってきていない時間だった。外で食べてくるんだろう。そう思っていた。

 いただきますをして、オレは、ご飯に口を放り込み、噛んだ。

 突然襲う歯茎の激痛。いたっと言い、オレは口を押えた。何かが口の中に刺さっている。それに気づき、オレはそれを抜いた。

 それは、三分の一ほどの長さになっていた針だった。

 こんなのが……!? と驚愕する。これが刺さったら痛い。早く消毒しないと。大丈夫!? と唯一心配する次男。オレの顔を見て、言った。何か、針とか入っていたの?って。

 正直言うとな、オレ、びっくりした。そして、ぞっとした。だって、うっすら笑みを浮かべる次男は、口から血を流して痛い言うオレを見て、すごく嬉しそうだったんだ。悪意のない、純粋な笑顔なのに、それが物凄く怖かったんだ。

 いやいや、次男がそんなことするはずない。そう思って大丈夫、といった。悪意満点なのは、他のきょうだいだ。異物混入を次男がするわけないし、さっき見た笑顔だって、気のせいだ。気のせいであって。

 自分をそう、言い聞かせた。

 

 誰かの髪が、大量に混入していたり、妙に洗剤っぽい匂いがしたり、そんなことはそれからも続いてた。きょうだいたちが当番の時はない。次男の時もない。ただ、次男がオレと交代する、と言ってくる日になるんだ。

 それから警戒するようになって、自分で作る、と言ったり、大皿のもの以外口に着けなくなっていく。そうすると、今度は個々の皿に盛る様になっていった。悪意のない、優しい次男の笑顔が、怖くなっていった。あの純粋な笑顔が、怖い。

 それを察しているであろう次男。でも、オレへの態度は何も変わらなかった。誰の悪意かはっきりしない、そんな嫌がらせだけが続いていた。次男じゃない。けれど、あの時の笑顔が、いつも脳裏をよぎった。

 そんなある日のことだった。

 曇り空の嫌な天気だった。次男が裏庭にいるのを、オレは見ていた。ただじっと地面を見つめ、いつものニコニコも浮かべていなかった。ただただ無表情で地面を見つめていた。

 なんだろう……何をしているんだろう……? 疑問に思っていた。

 次男が突然、獣のように何かに飛びかかる。ハンマー持って、何度も何度も何度も何度も地面を殴る。柔らかい土の上を、殴る殴る殴る殴る。土はどんどん変形し、ハンマーも泥だらけになっていく。それでも次男はやめなかった。異常なまでに無表情で、狂気じみていた。

 なんだよ、あれ……!? 思わず呟いた。だって、あんな次男、見たことなかった。あんなに恐怖を覚える狂気もなかった。怖い。怖い。怖い。

 雨が、一滴、また一滴と地面に染みこんでいく。次男の腕が、ハンマーを振り上げなくなってくる。ボコボコなった裏庭。雨に濡れていく次男。

 次男は突然、笑いだした。アハハハ、という、すごく無邪気だった。ハンマーを投げ捨てて、素手で土を掘り出す。泥だらけになっていく。止めなきゃ、止めなきゃいけない。そう思っていても、あの狂ったように地面を叩く無表情の次男がまだそこにいる気がして、声さえも出てこなかった。

 土の中から何かが出てきた。それは小さな……もぐらだった。

『ごめんねえ、ごめんねえ。痛かったよね、これで叩かれたら痛いよね、ごめんね』

 その声はオレの耳にも届く。けれど、あったのはとても優しげで、無邪気な次男の笑顔だった。ごめんねえ、と、笑顔で繰り返している。

『もぐらさん、ごめんね。でも、僕ら、似てるからさ、憎いんだよね。

人の目すらない真っ暗な場所をずっと掘って頑張っても、なかなか希望に出会えないのも、出会えてもわからない自分なのも、所詮誰かの下で生きていることも、誰にも認められない、興味を持たれない、って』

 

『それって……生きている価値、ないよね』

 

 

 

 オレは、次男がケロッと帰ってきても顔すら見れなかった。ご飯も口をつけられなかった。ただただ、次男があんなに壊れていることを知って、悲しかった。多分、その原因も自分なのも、わかっていた。

 次男が話しかけてもオレは適当にはぐらかした。とにかく怖かった。次男の見えなかった狂気がただただ。

 

 ごめんね。

 そんなメモを渡されたその日、次男はオレの住んでいた家に帰っては来なかった。その一週間後、遠くの海で浮いているのが発見された。事故だと言うが、あまりにも不自然で、そして、あまりにも次男の顔は穏やかだった。

 

――――――――――

 

 部屋の戸が叩かれる。控えめな叩き方。オレはのぞき穴からのぞくと、セーラが立っている。青い顔して立っている。ちょっと待て、結構ガチでヤバそうじゃないか?

 戸をあけ、セーラを入れる。どうしたの? と聞くと、腹枕、という。え、ちょ、待って、何の要求しているの、この人?

「腹枕してもらえば少し良くなる気がする……」

「うん、いや、色々おかしいよね?」

「とにかく腹枕して……ロックのバカどこ行った……」

 青い顔したセーラ。無理矢理オレを押し倒し、腹に頭を乗せる。ぐふっとなるオレを無視。押し倒す元気があるなら大丈夫じゃねえの!? とつっこみたくなった。いや、満足げな表情浮かべられてもな……!!

 そこにロック帰宅。押し倒されて腹枕するオレと、寝転ぶセーラ。目を丸くして交互に見る。そして、ふう、と息をつく。

「貴様、横取りか……! よろしい、ならば決闘しようではないか!!」

「絶対やだよ!」

「それじゃあじゃんけん大会開催しよう、そこはオレの場所だ!」

「ロックより寝心地いい……」

「セーラ!? ひどいよ!」

 ギャーギャー騒ぐオレらに、セーラはうるさいの連発。最終的にはセーラの拳骨がオレらに飛んできた。

 ……なんで、殴られるんだろ……理不尽……。

 

 

 仕方がないが重なっただけなんだ。仕方がない不運が重なっただけなんだ。それでオレが苦しんだ。そして、次男もきっと、苦しんでいたんだと思う。

 ねえ、ロック、セーラ。

 お前らは、こんなに周りを歪ませてきたオレを、認めてくれますか?

 認めてくれるのであれば、どうか、次男のように、狂わないで下さい。

 大好きだった人が壊れていくのが、狂気を見るのが、無自覚の悪意が、オレは、とても怖いのです。

 

 

fin

 

よし、イミフ。

今回のお題の提供者はルフトsでした。

ホラーフリーゲーム 感想6

『もしも死、ねえ』

・あらすじ

 主人公は家に帰ると電話が鳴る。それに応じるとそこからは……。

 

・感想

 最初、え!?ってなりましたね。エンドが早すぎて。え、これで終わりなん!? とつっこみつつも見ていましたが、なるほど、面白いですね。一つ一つのエンドから、次のエンドに変わっていくのです。毎回毎回部屋が何かしら違いますし、何かが動いたり音がしたり。

 ですから、エンドが非常に多く、把握しているだけでも23,4個ほど。

 主人公が様々なエンドを迎える中、だんだん主人公の身に起きたこと、そして、主人公の部屋にいる、近づいてくる「何か」がわかってきます。

 操作はさほどいりませんし、謎解きもない。ただ、エンドを探せばいいだけ。

 進めていくうちにタイトル画面も変わってきて不気味さがいいですね。

 個人的にはハッピーよりバッドな感じの後味悪いエンド集が好きでした。

 

 

 

『猫座敷』

・あらすじ

 町はずれの無人の館。そこにはお化けがでるという噂があった。

 ……なんていうどこかで聞いたことある噂に興味を持った幼馴染達と引きずられるように連れてこられた主人公。

 ところがそこはお化けがいないどころか、ちゃんと人が住んでいる。

 そこの主人である少女に噂を消してもらいたいから、お茶して帰って下さい、と言われその屋敷に入る四人。

 しかし、そこには喋る猫達と、化け物のようにでかい人食いの猫たちがいて……。

 

・感想

 正直、ホラーかと言われれば、違う。ホラーっぽい要素はあるけど、ホラーじゃない。ヤンデレ少女と化け猫は確かに怖い。怖いけれど……それ以上にこの幼馴染たちと主人公のやりとりや、ちょいちょい入るネタがおもしろすぎる……!!作者さんすごいふざけてる……!!

 その反面、謎解きや大雑把な流れはスムーズでいいですね。詰みにくい。わかりやすいですし、逃げるのも難易度が低め。キャラのデザインも好きですし、何より猫好きの自分にはたまらぬ作品でした。

 真エンドも最後まで爆笑させていただきましたし、ふざけたエンドも面白かったです。時々見えるちょっとした悪意や狂気が怖かったですけど。

 

 

 

『物念世界』

・あらすじ

 とあるお祭りに来た少女凛。店の人たちはみんな仮面をかぶっていて、変わったお祭りだな、と思いつつも、お父さんに人形を買ってもらった。

 家に帰ると凛はお父さんが買った花札と、買ってもらった人形を眺め、眠りに就いた。

 ところが、その夜、妙な物音に目をさました凛。物音の正体を探すと、なんとそれはお母さんがお父さんに買ってもらった綺麗な手鏡で……。

 

・感想

 ひとこと言いたい。風景が非常に美しい。個人的に風景などは割と素材だったり、手書きでもざっくりしていたりが多いです。でも、このゲームは風景が非常に凝っていて、煌びやかでしたね。鳳凰が出てくるシーンではうおお!?っと感動してしまいました。

 物には念がこもる。だから、物を大事にしなければいけない。物にも心があり、物にも悲しみや怒りがあるのだから。

 凛が入っていったのは、人に大事にされず、捨てられ、人間を憎んでいる物たちの世界。そこで、凛の優しい心が物たちに浸透していきます。

 ……というより、凛ちゃん、ただのアホの子な感じがするんだけどな……。個人的にこの子大好きです(笑)

 さほど難しい謎もないですし、びっくりもないので、興味を持ったらぜひ。

 

 

 

『クロエのレクイエム』

・あらすじ

 ある夜、御者に大量のお金を渡して馬車で遠くまで来た少年ミシェル。そこで、彼はクロエという紫色の瞳をした少女に出会う。無邪気な笑顔の彼女はこの館の呪いを解いてほしいと彼に頼むと、彼は承諾。

 この館で起きたことを見ながら、呪いを解いていく。

 

・感想

 クラシックが基本BGMとして使われ、それだけで嬉しいですね。

 全体的には簡単ですかね。わかりやすいバッドエンドへのトラップあります。ですが、簡単にも関わらず、ぞわっとさせる演出が好きです。真っ赤な手形とか何かが映るとか、肖像画が一瞬にして変わるとか、気持ちが悪い。

 グラフィックが可愛らしく、クロエちゃんが自分の好み。ミシェル君も、ポーカーフェイスが崩れた時の表情いいです。

 どこか狂っている家族たちに囲まれ、自らも歪み耐えきれずある日プツンっと切れた二人が悲しすぎます。特にミシェルが歪んだ理由が、大好きな双子の弟の自分への嫉妬と、愛されずに大人に利用されるだけ利用される、という天才ゆえの悩みと苦しんだから。

 これは良作です。難しくはないので、クラシックが好きな人はぜひぜひ。

 

 

 

『霧雨が降る森』

・あらすじ

 20歳の自分の誕生日、神崎詩織の両親は事故で亡くなった。色々あったのか両親に親戚はなく、ひっそりと葬式は行われ、その後の数日間神崎は両親の遺品を整理していた。

 天涯孤独の身になった神崎が黙々と家族の遺品を整理していくと祖父らしき人と両親と幼い自分が写った写真を見つける。寂しさを満たす為に写真に書いてある住所と写真の背景にある建物を元にその場所を目指す。

 資料館となっていたそこで出会ったのは喋ることができない須賀という管理人の青年で、彼は彼女に忠告する。

『森に決して入るな』

と……。

 

・感想

 須賀君がイケメン過ぎてとにかく悶えたゲーム。ホラーとしてはそこそこの怖さ。5つのエンドどれも魅力的すぎるし、真エンド以外がすごい切なかったです。神崎さんと須賀君のこと知った時、2人の関係にときめきましたね。

 というか、須賀君何気優しいし、神崎に何かあったときに真っ先に心配したし、カッコいいし、ツンデレ過ぎてもう色々辛い。何須賀君男前じゃないですか((落ち着こう

 ストーリーはそこまで長くなく、キャラも少な目。謎も簡単ですね。ただ、ちょっとホラーの傾向としては気持ち悪いかも。演出が少し好き嫌い分かれるかもしれませんね。

 全体的にちょっと重めでしたが、いいですね。泣ける。須賀君本当に好きすぎて辛い……!!

Strange Strong high school   1

「神山、お前、武器持ってるか?」

 神山楓17歳。

 好きなことは料理、嫌いなことはケンカ、趣味は家庭菜園と読書。中肉中背、特にこれと言った特徴もなく、正直自分でもクラスメイトAレベルに影が薄いことは自覚している。自慢できることと言えば、人より大きな声が出ることと、体が丈夫なぐらい、かな……?

 そんな自分で言うのも恥ずかしいぐらい普通な僕ですが、こんな質問、初めてです。

 そもそもこの目の前に立つ少女に違和感を覚えたのだが、理由が左目が黒みのかかった青、右目が黒いいわばオッドアイ、女の子にしては背の高い子で僕とあんま変わらない、そして制服が指定されてないとはいえ男子の格好で、一番気になるのは腰に携えた一本の棒のような物だ。僕の経験と記憶に間違いがなければ、これは日本刀と呼ばれる代物。少女が持ち歩いているだけでもなく、学校にあること自体おかしな存在のはずだ。

 いや、この学校、入ってきてからずっと思っていたが、刀やらヌンチャクやら、おまけに銃らしきものさえ持っている人があまりにも多い。おかしい。僕は学校に来ているはずなのだが、ヤの付く自由業のアジトに来たのだろうか?

「……神山?」

「あ、あの……えっと……」

「……なんだ、持ってないのか。ほら、こっち貸してやるよ、護身用に」

 もう一本持ってた、この子!? すごい何気なく渡しているけど、これ、いいの!? ちょっと待って、これ、僕色々おかしなことに巻き込まれていないかな!? あと、なんでちょっと得意げなの!?

 あまりに多くのおかしなことが起こって、僕の頭はパンクしそうだった。どうしよう、これはツッコんでいいのか悪いのか……いやいや、ツッコまなくても少しくらい質問はきっと大丈夫だよね。うん、大丈夫。

「あの」

「……?」

「ここの学校って……いつもこんな感じ?」

 少女はしばらく黙り、そして無表情のまま口が開く。控えめに聞いたつもりだけれど、怒って……ないかな?

 心配になる僕の後ろを、一瞬、誰かが走り抜けた。異様だった気がする一瞬だけ視界に入ったその姿。ハッ!? となり、そっちの方に目を向けるが、その人は既に窓から飛び降りていった。……え、飛び降りた?ここ、3階のはずなんだけどな? おかしい……。き、気のせい……だよね?

 そんな僕の耳の側を何かが一瞬通り過ぎ、窓を割って行く。「部長おおおおおおおお!!」と叫ぶ声。それと同時に赤みかかった茶髪の少年がドアを蹴り破り(普通に開くんだけど)、すごい速さでダッシュし、さっき一瞬だけ視界に入った人を追いかけるように窓から飛び降りる。

「図書室に自爆装置とかしょうもないもん作ってんじゃねえ、クソ部長があああ!!」

 そんな物騒な言葉が聞こえてきた。

 ……。うん、あれ、今、何が起きたの……? え、本当にちょっと待って。ねえ、これ……。

 少女は一つため息をつき、相変わらずだな、と呟く。そして、僕を見て一言。

「ああ。これ、日常茶飯事」

 ……。………。…………。

「……神山?」

「……だ……」

「?」

「騙されたああああああ!!!!!」

 

 転入早々、親の口車に乗ってこの学校に転入したことを後悔した。

 

 

 私立梟山学園高等部。

 全国学力テスト上位1000人に学年の4割は入り、文化部運動部共に成績は優秀。寮は完備、施設に関しては様々用意されており、どの分野を学ぶことができる。工学系でも医学系でもなんでもござれの学園。

 この超エリートが集うとされているこの学園は、もちろん入るのは非常に難しいとされている。しかし、僕は何故かすんなり入れた。成績はそこまでよくないんだけどなあ……なんでだか未だにわからないでいる。

 だが正直、この学校、変だ。

 どこが変かはわからない。だって、全部、おかしいから。

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 

ギャグが書きたい時、ちょいちょいこれ書いてるかと思います故。