フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

いい子

ねえ、ママ。

僕はその人に手を伸ばす。僕を見ようともしないその人。大きな影で、僕から離れていく。

ねえ、待ってよ、ママ。

僕の目から涙が溢れた。出ない声。泣いてる音しかしなくて、僕の泣き顔はぐちゃぐちゃになるだけ。

僕を待ってくれないママ。いつもそうだ。僕を見ない。僕を見ようとしてくれない。

ねえ、ねえ、ねえ、ママ。

僕のない声はママに取られた。ママがいるから、声なんてなくても大丈夫って言われたから。なのに、僕を見てくれない。

なんでなの?僕、ママがいるから声、なくしたのに。ママがほしいっていうからこうなったのに、なんでいつも僕を見てくれないの?

僕はママの手を握る。僕を見てよ、ママ。

その目が、僕の方を向いてもママはただ僕を蔑むように僕を見ている。

僕を、悪い子だと言いたいみたいに……

 

 

いい子にならなくちゃ。

いつからか僕は自分にそう言い聞かせていた。

きっとママは悪い子が嫌いなんだ、悪い子になっちゃだめなんだ、僕はいい子になればきっとママは僕を見てくれる。

でも、いい子になる方法がわからない。どうすればいい子になれるのかな?

ママにとって、どんな風になれば僕はいい子になるんだろう。

考えて、考えて……そしてわかった。

泣かない。

泣いたら、ママは嫌がる。きっと泣くのやめて、ママの言うこと聞いて、いっぱい勉強すれば、ママは僕を見て……大好きでいてくれる。

手のかからないいい子にならなきゃ、辛くても泣かないようにしなきゃ、僕が我慢すればいいんだ。

泣かない、泣かない、泣いちゃダメ、泣いちゃダメ、泣いちゃダメ……

いつの間にか僕は、辛いことを体験したら心の中でそうつぶやき続けるようになった。

 

 

クラスで一番だ。

満点3つも取った。頑張った。僕の口から笑みがこぼれてくる。これで、少しはママも僕のこと見てくれるかな?

僕は周りと違って髪が赤くて目が緑色だ。だから目立つし、からかう人もいる。声がでないことをいいことに悪口いっぱい言ってくるし、先生に告げ口する奴らもいる。

でも、いいんだ。

僕が我慢しているから、僕がいい子でいるから、別にみんなまで付き合う必要なんてない。僕は泣かないから。大丈夫だよ、何言っても、何言われても、僕は言い返したりしないし、ちゃんと聞く。

いい子になるためだもん。

 

 

だから、ママ、僕を見て。

僕、いい子になったでしょう?

 

 

 

 

「笑うな」

僕を見て言ったママの言葉。よく聞き取れなくて、僕は首をかしげる。満点取ったテスト用紙。またママに見せる。

ママはテスト用紙を僕から奪い取ると、目の前でビリッと破る。まともに見ることなく、僕の頑張った証は、ただのゴミになって僕の前に散っていく。

何が何だかわからなくなった。目の奥がどんどん熱くなっていく。

泣いちゃダメ。泣いちゃダメ。泣いちゃダメ。

僕は頭の中で何度もその言葉を繰り返す。僕はママに言われる通り、笑うのをやめる。

というより、笑えない。うまく、笑えない。何をしたらいいかわからなくて、笑うのが嫌だ、っていうから、笑わない。僕を見てくれたママ。でも、その目は、僕が求めていたのと違っている。

何で……そんな風に僕を見るの?

ママ、なんでそんなに汚いものを見ているかのような目なの?

僕、泣かないいい子になったよ?

勉強頑張って、ママのためにいっぱいいっぱいお手伝いして、泣かないで、いい子になったよ?

違うの?何が違うの?僕はどうしたらママに好きになってもらえるか、いっぱい考えたよ?

 

「気持ち悪い」

そう言って、僕をママは突き飛ばす。生まれつきそんなに体は強くない僕の体は簡単によろけ、派手に転ぶ。

ママは、僕をまた見ることなく外に行こうとする。

死ねばいいのに。

 

バタンとしまるドア。

僕は呆然とし、その場に倒れたままだった。

何でママはこんなにも僕を嫌がるのか、全然わからない。ママのために声を無くして、ママのために頑張って、ママのためにこの能力で見える物をこらえて、我慢して……

涙は、出てこなかった。

泣いちゃダメ。

僕の頭はそれでいっぱいになっていた。

 

 

 

 

クラスの子が、僕につっかかってくる。僕の髪や目を、バカにする。声が出ない。

筆談できるほど余裕がない。緊張する。

ママが嫌うから、笑うのやめた。泣くのももちろんしない。ママの視線に入らないように、ママの迷惑にならないように、僕はずっとずっと、無表情でこそこそとしていた。

無表情で泣きも怯えもしない僕。クラスの子は気に入らないみたい。僕のこと、突き飛ばす。

場所が悪かったね。

僕はその勢いにのってわざと足を踏み外す。

僕の体は、階段の下へと落ちていく。何度も、何度も、体をぶつけながら下に向かっていく。痛い。痛い。それでも遠くなる意識の中、心の中でまた呟いていた。

「泣いちゃダメだ」

 

 

 

ママ、僕が死んだとするなら、ママは僕をいい子と褒めてくれますか?