フリーホラゲーを呟く会

ホラーフリーゲームの感想を不定期に呟く。時々痛い小説があったり。

キセキ

高熱で倒れ、冷たい床で薄いタオル一枚で震えるオレ。頭はクラクラするし、体中が痛い。泣きたくなるくらい痛い。
のどが渇いた。
でも、高熱でも水道の水は飲ませてもらえない。近くのバケツにたまったひどく濁った雨水を口に含む。ちびちびとなめるようにゆっくりと飲んでいく。
鍵のかけられたこの何もない部屋。灯りもなく、暗く閉ざされている。隣でワイワイ騒ぐ声が聞こえる。ドアの隙間からほんの少し見える光と、食べ物の匂い。
オレだけがここに横たわっている。高熱があるからまだマシなこの部屋で、まともな飲み物も食べる物もなく、空腹に、のどの渇きに耐えてうずくまる。
悲しくないって自分に言い聞かせる。自分だけこんなことになっているのは仕方ないって。
寂しくないって言い聞かせる。ずっと一人で大丈夫だったんだもの。
辛くない……苦しくない……ずっとだもの……。
でも、羨ましいよ。
妬ましいよ。
泣きながらオレはタオルの中にうずくまる。固い床が冷たい。寒気がずっとしていて、震えが止まらない。
きゅうってなるお腹。一昨日パンを食べたじゃないか。それでまだもつだろ、それ以上食べたくないんだ。
そう思っても、温かい部屋で、おいしいものを食べてるみんなをオレは、オレは、ただただ羨ましく思って聞いて、見て、感じてるしかできなかったんだ。
高熱だからって、優しくしてもらえるわけないじゃないか、誰も心配してくれるわけじゃないじゃないか。死んでもいい人間に、そんなことしてくれる奴なんか……いるわけないじゃないか。
何を期待してんだろ、オレ。
どんなに自分を嘲笑っても、涙が溢れた。違う、って言いたくて、ほしいものばかりいっぱいあって、嫌で、嫌で、嫌で、嫌で……。
生きていいよって、誰かに言ってほしかった。
心配してほしかった。
一人じゃないよ、って言ってほしい。
無理だよ、って自分に言い聞かせる声に、誰もが同調するようにオレを嘲笑ったんだ。誰一人として、違う、なんて言ってはくれなかったんだ。




「逃げるな」


そう言われて殴られたことがあった。外に出るドアに走って、ドアを開けようとした。でも、すぐに追いつかれた。ドアから引き離されて、床に叩きつけられた。逃げようとした罰に、何度も殴られた。何日も水も食べ物ももらえなかった。柱に縛り付けられて、呆然と過ごしていた。
逃げようなんて思うな。
何度もそう嘲笑われたよ。
ドアに手をかけた瞬間、光が見えたように思ったんだ。誰かに会える気がしたんだ。ここから逃げれる気がしたんだ。でも、結局幻に過ぎなかった。
縛られ、呆然とする頭。その目の前には大きな鏡が置かれていた。その姿をオレはじっと見つめる。
オレが外に出たからなんなの?
こんな髪、こんな目。
みんな嫌いになるよ。みんな話しかけもしてくれないよ。
鏡に映る自分を見つめる。骨が浮き出そうなぐらいがりがりに痩せてる。すごい虚ろな目をしていて、生きているのが不思議なくらいだ。
こんなオレ、好きになんてなってくれないよ。
死ぬか、遊ばれるしか、誰の役にも立たないくせに。むしろ死んだ方がいいんだ、こんな奴。
鏡の自分に話しかける。
「お前、生まれてこなければよかったのに」
この瞬間、自分の顔が、悲しくて顔をくしゃくしゃにして涙を流したんだ。


もう無理だよ
もう苦しいよ
もうやめて
もう生きたくないよ
どうかオレを
殺して
お願いだから
死ぬことで誰かのためになるなら、いっそ殺して
そうじゃないと……


エルク、と名前を呼ばれる。振り向くと、オレよりずっとずっと大きい影。オレだって成長したのに、この人には全然小さくて、子供だ。それでも見え張りたくて、子供じゃない、って言う。自分だって大人なんだ、って言う。
でも、この優しい手に、笑顔に、甘えたくなる。思いっきり、大人とかそういうの忘れて。嬉しげなこの笑顔に、オレはつられて笑う。忘れていた感情だった喜びを、この身に感じながら。
その人はオレを愛しげに抱きしめてくれる。大きくて、優しい優しい温かな体。優しい手つきで、大切なものを扱うかのようにオレを何度もなでる。
オレにかけられる言葉。蔑みなんて少しもない、愛しげな言葉。
この人は自分の命顧みずに、オレを見てくれたんだ。
誰に会っても蔑まれて、弄ばれて、それでも、あきらめるしかなくて、仕方ないんだ、って言うオレのために、色々危険をおかしてくれたんだ。
死ぬか弄ばれるしか役に立たない悪魔の子、って言われたオレを、優しく抱きしめたんだ。
どんなに拒絶しても、どんなにかかわりたくない、って言っても、気が付くといて、気が付くとずっと近い存在になっていて、こんなオレを、好きだ、って言ってくれて……。
だから、大好きになれたんだ。
誰もが、否定してほしくて言ったのに嘲笑って同調してきたことを、違う、って言ってくれたんだ。


誰かが言うんだ、オレは愚かだって。
誰かが言うんだ、オレは幸せになるべきじゃないって。
誰かが言うんだ、誰かが言うんだ、誰かが言うんだ……。
でも、あの人はそれを否定するんだ。
それは違うだろ、って。
あの人はもしかしたら愚かかもしれない。だって、こんなにも嫌われ者のオレを愛したんだから。
でも、オレはもうそんなことで悩みたくない。もう、自分のせいとか考えたくない。あの人が悲しむから、だから、オレが存在したことに胸を張って生きたい。自分を好きでいたい。
あんなにも嫌われた髪を、目を、この身を、好きだと言ってくれるあの人のために、オレは、自分より好きなあの人がいる自分を好きでいたい。
ずっと思ってきたことを変えるのは難しい。
ずっと言われてきたことを気にしなくなるのも難しい。
その気持ちを貫くのも難しい。
でも、できそうな気がするんだ。
あの人に出会えた今の自分なら、時間がかかっても。